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[739] Saya suka,
   
日時: 2013/01/30 22:52
名前: サヤカ+ ID:/0Ak25b2

*


 休憩室に入ると、彼女は丸椅子に柔らかく腰を掛け、そのままの姿勢で停止していた。
 わたしは勤務が終わって早々と着替え、家に帰りたかった。だけれど、彼女が疲れ果てて眠っているそばを通って更衣室に入ることが、なんだかはばかられた。彼女を起こしたくなかったから。

(疲れているんだ)

 みんな、疲れている。勤務中の休憩や、仕事が終わって上がるとき、疲れはどっと押し寄せてくる。

 だから、わたしはできる限り足音を忍ばせて、彼女のほうへと近づいた。更衣室のドアを開ける気はなかったけれど、せめてわたしも椅子に腰かけたかったから。
 彼女と少し離れた場所に腰を掛けると、彼女の眠っている顔はまるで、陶器のようだった。苦悩している顔でもなく、笑顔でもない。ただただ冷たい、陶器のようだった。
 そして海の向こうの外国から、この国に働きに来ている彼女が、目の前で疲れ果てて眠っているのを見る、わたしの心も、陶器のようだった。

「ん」

 不意に、彼女が目をあけた。
 わたしはあわてて立ち上がった。
 寝顔を観察していると思われたら、なんだかまずいような気がした。

「ああ」

 彼女はわたしを、まだ焦点の定まらない目で見つけて。

「おいで」

 手を伸ばした。

 わたしは引き寄せられるように、彼女のそばに立った。

「笑って」

 海の向こうの言葉ではなくて、この国の言葉で。彼女がわたしの笑みを願った。

「ああ」

 わたしが思わずはにかむと、彼女はわたしの頬を触った。
 わたしの頬には小さいころからずっと、えくぼが出る。そのえくぼをなでて、彼女は言う。

「かわいい」

 ――きっとそこに、国境はなかった。

 彼女の冷えた手のひらと、眠たげな声と、あの時の空気を。


 わたしはたぶん、ずっとわすれられないだろう。




*

>  〔カベナンテイラナイ、セカイガヘイワナライイノニ。〕

あなたは今どこで、何をしているの。


*
><表題作>
>>087     すりりんご。
>>090     メランコリー・メリーゴーランド
>>107     「 waiting for you. 」
>>108     Saya suka,

*
><目次>
>>066     短 編 集
>>067     小 小 話 & 長 編 集 & 詩 & 謡
>>068     総 集 編

*
><最近のUP>
>>108     Saya suka, 2012/10/19
>>119     Re: Saya suka, 2012/10/30
>>110     ゆびをきる 2012/10/20
>>114     女の不幸 2012/10/25
>>120     すれちがうひび 2012/11/01
>>124     10時間睡眠 2012/11/03
>>126     異民族交流 2012/11/04
>>127     或るかなしみ 2012/11/04
>>128     嫉妬するくらいなら 2012/11/06
>>131     BLUE 2012/11/13
>>132     ポークガール 2012/11/16
>>138     スキトオル 2013/01/30



*
>>[739]  Saya suka,

>             2008/02/06〜
>             2008/06/21〜
>             2012/10/18〜


いつも誰かに憧れて。隣の芝生は青いからかな。
隣の芝生が青いなら、あなたの芝生も青いでしょう。



*
[1215225026-11O1aKQhk]
メンテ

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ナンバースリー・サイドA ( No.141 )
   
日時: 2013/02/22 17:42
名前: サヤカ+ ID:6i4I4nwQ

*





「先輩」

 振り返ったそのひとの、柔らかな唇にたちまち、キスをする。
 一回目は軽く、二回目は甘く、三回目は深く。

「――どうしたの?」

 瞠目しながら、彼が言った。
 どうしたの、なにかあった?
 なんて。

「――キスで人の心、読まないでください」

 わたしは口元をぬぐいながら、彼を見上げるようにしてにらんだ。

「だっていきなりこんなことしてくるときって大抵、何か落ち込んでるときでしょ」

 彼は笑う。
 ただただ優しく。
 まるで妹に微笑みかけるみたいに。

「――……」
「え。なあに」

 呟いた声が聞こえなかったのか、彼が顔を寄せてくる。
 その唇にもう一度、かみつくようにキスをした。
 それから両手で彼の胸板を押して、ソファにむりやり押し倒す。

「どうしたの」

 驚く彼を、今度は見下ろすようににらんだ。
 下を向くと涙がこぼれそうだった。

「負けない」
「なにに?」
「先輩に」

 わたしは彼の隣にとさっと軽く、身を投げ出して、それからもう一度キスをした。

「どうしたのって」

 耳に、頬に、唇に。
 キスをまぶすわたしに、彼はくすぐったそうに笑う。

「ねえ先輩?」

 キスの合間に問うてみる。

「なあに」

 夢見心地の彼はゆったりと答える。

「今まで何回キスしたの?」

 わたしとじゃなくて、前の人たちと。
 そういうと、今度は彼が急にわたしにキスをした。

「数えられないくらい」

 わたしが悔しくって唇をかんだ意味を察して、彼はわたしの頬にキスをする。

「でも今の子が、いちばん多いかも」

 三番目は、痴女だったみたい。





 わたしはナンバースリーの悲しみに、彼の唇をもかんだ。









*
メンテ
地獄 ( No.142 )
   
日時: 2013/03/20 12:20
名前: サヤカ+ ID:e3k.MjxA

*



 どうして女は犯される側で、男が犯す側なのだろう。
 そして犯される側のほうが軟弱で、犯す側が凶暴なのは、どうしてだろう。

 ある国の少女は、恋を知らない。

 売られるか、連れ去られて兵士の妻にさせられるか、犯されて殺されるか。
 とにかく、性と恋が結びつかずに、生涯を終える。
 愛のない行為の果てに早すぎる結婚、早すぎる出産をして、その娘もまた、それを繰り返す。なぜなら、歴史は繰り返されるから。女は軟弱だから。太古の昔から今の今まで、女の体は犯される側なのに、犯す側よりずっと脆く儚い造りになっている。



 天を仰ぐたびに、走馬灯のように、自分が女であったことを思い出す。
 男の手が服の下に伸びてくるたびに、どきどき、どきどきと、ときめきとは程遠い、恐ろしい動悸がする。(ああ、わたしは女だ)。それは諦めのような気持ちだ。(男になりたいとは思わないけれど)なぜ女の体のほうが弱いのだろう。

「――どうして泣いているの?」

 彼が笑う。怖いの? そろそろなれない? 彼は困ったようにわたしに微笑みかける。わたしは頭を振る。「怖い夢を見たの」、それを思い出しただけ。いいよ、続けて。服の下に潜り込んできた彼の指を、彼の掌を、焼き鏝のようだと思いながら、わたしは笑ってあげた。
 彼は少しだけためらった。それでも、はじめてしまった行為を途中でやめることは、彼の体が許しはしないのだろう。下着のフックに手をかけて、ぱちり、とはずしたかと思うと、大きな手で、乳房を包み込んだ。

(スキ、好きだ。これは恋だ)

 性急になる彼に合わせて、わたしも両手で彼を向かい入れる。
 彼の首を掻き抱いて、唇を合わせると、彼のためらいも飛んだ。

(幸せな恋の果ての、行為だ)

 大好きだった。
 出会った時のことを覚えている。
 初めて名前を呼んでくれた時のことも。
 職場で、外で、夕食の席で、目が合った時のときめきも、耳をくすぐる彼の声を好きだと思った時の気持ちも、彼の心を知った時の喜びも、覚えている。

(初めてのキスも、初めての行為も、覚えている)

 唇を合わせた数は知れず。
 肌を合わせるのももう、数度にわたる。


(好きだよ、大好き)


 真夜中のホットミルクとか。
 どっちの愛情が深いかということで口論したこととか。
 毛布にくるまって一緒に本を読んだこととか。


 自分は愛されていたと思うし、自分は愛していると思う。






 なのに。







「泣くなよ」



 彼が一等低い声でわたしの耳元に囁く。
 それは先ほどの優しい声ではなく、叱責の音を含む、けものの唸りのような声だった。




「悪いことしてる気になる」




 彼は涙をなめとって、それでもなお、体の底から湧く要求に己の身をゆだね続けた。





(ああ、恋を知らない女の子は、どんな気持ちなのだろう)







 恋を知ってなお、辛い行為に。
 愛がなければどうして耐えられよう。否それは、この世のいちばんの拷問になるだろう。





 人の地獄は生にある。





*
メンテ
君に呟く ( No.143 )
   
日時: 2013/04/07 18:56
名前: サヤカ+ ID:BPf4IHtw

*


 ぐじぐじと、鼻をぐずらす。
「くしゅん」
 ずび、ずび。ああ、喉もいたい。心なしか頭も痛い。

「かふんしょお?」

 うみゅ。
 と言って、携帯をパカリと開く。
 まだまだ、パカリと開く形態の携帯である。

「あ、ツイッター?」

 あきれ顔の友人を放っておいて。

(かふんしょう、つらいー(><。))


 慰めてくれる人のいる、幸せ。



(そかそか。おれもかふんしょう、つらい。)




 世界じゃなくて、世界に一人の君に呟く。





*

 些細なことで恋愛感情確認中。
メンテ
午前零時は午後二十四時 ( No.144 )
   
日時: 2013/07/02 23:57
名前: サヤカ+ ID:VlLTq/lE

*



 汚い言葉が増えたもんだ。




 パーソナルコンピューターを“パソコン”と約す精神がわたしはとてもクールで、いい文化だなあと思っていたのに。





 毎日の生活楽しそうでうらやましいな。



 そんな気持ちを、「リア充爆発しろ」と変換するなんて、この国の言葉の乱れを感じずにはいられないよ。





「かこかこかこかこ」




 ぱこぱこぱこぱこ。
 呟いた文字は流れてく。TLにいる1000人の友達は、誰もわたしのことなんか見てない、だれも自分の気持ちを大事にしていない。






 ああ、鬱。鬱屈。








*

アトガキ。

 さみしい言葉の使い方が増えたもんだ。
メンテ
気取らない姿 ( No.145 )
   
日時: 2014/05/11 17:16
名前: サヤカ ID:uNo3bc3.

*

 お見舞いに行く、と彼が言ったので、わたしは、だめ、と言った。左半身が麻痺している病気なので寝間着からほかの服に着替えるのも一苦労だし、コンタクトもお化粧もできない。歯磨きだって近頃不十分だし、病院の風呂は週に二回しかない。髪からは悪質なにおいが立ち込めているような気がする。


「お見舞いに行って、一日何をするでもなくきみのそばにいたいんだ。なんかそういうのって、良くない? 恋人みたいじゃん」


 彼が電話の向こうではにかむのがわかった。ずるい、そんな風に言われたら断れない。わたしの耳は急に暑くなる。


「恋人……って」


 わたしと彼が付き合い始めたのはつい最近のこと。それも、わたしの片想いで、わたしから告白して決まった男女交際だったから、てっきり彼はまだ、わたしのことを「彼女」と認めていないと思っていた。それを恋人呼ばわりされると、片想いから一歩進んだような気がして嬉しい。


「メガネだけど、いい?」


 顔も耳もきっともう真っ赤だったと思うけれど、携帯電話越しでよかった。


「行ってもいいの?」


 嬉しそうな声に、わたしは照れてしまう。ああ、わたしは彼の中でも恋人になったんだな、と思った。うん、と言うと彼が甘く囁いた。


「いろんな姿が見てみたい。気取ってないところが見たい。それでこれから付き合っていけるかどうか、考えるから」


 ひどい、とわたしが言うと、彼は「本気だよ」と言った。「ビョウキの女の子なんて市場価値は低いよ?」――それでわたしの百年の恋は冷めた。





*
メンテ

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