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[1115] カスタード
   
日時: 2015/06/15 20:37
名前: 七川絢 ID:4OadWdmc

 あまい、きみいろ。


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■ご挨拶
 はじめまして。七川です。
 ゆったりのんびり気ままにつらつら書いてきます。
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■目次
 メロンパンみたいに恋をする[>>1]
 うそつき[>>2]
 わかれみちの行方[>>3]
 心酔[>>4]
 マリッジブルー[>>5]
 壊れゆく世界のまんなかで[>>6]
 グッドラック[>>7]
 すてきな1日[>>8]
 ダイエットしなきゃ[>>9]
 ダラク[>>10]
 四月の愚者[>>11]
 待ち会わせ[>>12]
 呪い[>>13]
 白い珈琲[>>14]
 A Mouse[>>15]
 とんかつ定食[>>16]
 社会的動物[>>17]
 せかいはまるい[>>18]
 つまづいた石のかたち[>>19]
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A Mouse ( No.15 )
   
日時: 2015/04/11 17:25
名前: 七川絢 ID:v9/ksHBc





 誰よりも明るく輝く星は、気づかぬうちに自身をその熱によって滅ぼしてしまわないのか。


 
 使い古しのソファに横たわる彼の顔には、まっしろいタオルが被せてあった。
 つめたい水分を含んだそれが、少しでも彼の癒しになればと思う。
 
 額にのせられた手。
 力を失って、ただ弛緩する身体。

 せわしないのは、肩と胸の上下する動きだけだ。
 
 荒い呼吸音が、ほんとうに静まる瞬間を久しく目にしていない気がする。



 「麦茶、もっと飲むか?」

 
 テーブルの上の空になったコップを見て、俺は彼に問うた。

 「……いや、いい」

 普段、多くの人々が耳にする独特の声とは似ても似つかぬ、少しかすれ気味の声が答えた。
 俺はこちらの声のほうが好きだ。
 低めで、よく通り、平凡なようで、けれど聞き逃せない癖があって、どこか色気の漂う大人の声。
 
 手持ち無沙汰になってしまった俺は、
 置きっぱなしになっていたプラスチック製の安っぽいうちわを取り、
 ゆるやかな風を彼に送ることにする。

 ありがとう、と、うつろな感謝。
  
 こんなに疲れきっていても、やはり彼は彼なのだと思う。

 よくできた人だ、ほんとうに。
 作り笑顔とファンサービスがとてもうまい、とても傷つきやすい魔法使い。

 白いタオルに隠された素顔を、俺は暴こうとはしない。
 布一枚がつくりだした、かりそめの隠れ場所を奪うだなんて残酷なことはしない。


 「いま、何時かな」

 「……二時すぎ」
 「あと三分したら出るよ」

 「おう」

 舞台の幕が開けば、彼は、みんなの望む彼になる。
 老若男女問わず、みな彼が大好きで、永遠のスターだと信じて疑わない。

 愛され上手な彼は、格好良く、時に可愛らしく、計算高く、理想を具現化してみせる。
 喝采や、歓声の受け取り方をわきまえている。
    
 

 それでも、ここにあるのは、いま、ここにあるのは、たったひとりの。


 「なあ」

 「ん」


 「お前は、すごいよ」
 「…………」

 
 「ほんと、すげーよ」


 「…………」


 なあ、スーパースター。
 
    
 今だけはチーズ欲しがってチュウチュウないてもいいんだ。



 

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とんかつ定食 ( No.16 )
   
日時: 2015/05/21 16:18
名前: 七川絢 ID:n3QVSW7U


 君原先輩は、少し変わっている。

 どこが、と言われてもうまく説明できないのだけど、
 天下の東大目指して二年浪人した挙句、結局入学したのは標準レベルの私立大学で、
 高校時代は野球部のエースで文化部とはまるで縁がなかったくせに、
 サークルはオーケストラを選んで、それも半年経たないうちにやめて、
 今は私の所属する超ゆるゆる、少人数がウリの旅行サークルの幽霊部員をしているとこ、とか。

 頭はいい。でもそれを決して表に出そうとしない。
 要領がいい。平和主義者で、人のうえに立つのがだいきらい。

 君原先輩は変わっている。

 
 「なに頼んだんだっけ」

 注文してから十分。どこにでもある定食やさんにしては、料理が運ばれてくるのが遅い。
 君原先輩もそう感じたのだろう。
 ぼんやりと腕時計に目をやりながら、私に問うた。

 「しょうがやき定食です」
 「へえ」
 「先輩は」
 「とんかつ」

 君原先輩は、ひょろりとした痩身のくせに、よく食べる。

 カップラーメンとか、ポテチとか、菓子パンとか揚げ物とか、こってりしたあんまり栄養素のなさそうな食品を、平気な顔でペロリと平らげる。

 
 
 「はい、おまちどお」


 いつ見ても笑顔のふっくらしたおばちゃんが、トレーに載せた定食を運んできた。

 「やっときた」

 君原先輩は、おばちゃんの愛想笑いをまるで無視してぼそりとつぶやく。
 私はそういう行動の端々にひやりとさせられるけど、先輩は一貫して気にしないのでもう慣れた。

 私の前に、てらりと輝く豚肉の生姜焼きが登場。
 山盛りのキャベツがつけあわせで、あとわかめの味噌汁とごはん。漬物もすこし。

 先輩もメインが違うだけで似たようなものだった。

 お腹がぺこぺこだったし、ちょっと待たされたこともあって私はすぐに割り箸を手に取りいただきます、と食事をはじめる。


 先輩は、のろのろした動作で割り箸をひっつかむと、目の前のとんかつを眉をしかめて見つめた。

 「あれ、どうしたんですか」
 「…………」

 「とんかつ、ですよね?」

 「……そう。俺は、とんかつ、頼んだの」


 君原先輩はバリトンボイスでうなると、深くため息をついて諦めたように肩をすくめる。


 「何でとんかつにキャベツがついてくるんだろ」
 「え」

 「俺はとんかつ、頼んだの。キャベツは頼んでない」
 「嫌いなんですか?」

 「いや嫌いじゃない。むしろ好きだ。キャベツおいしいし」

 「じゃあいいじゃないですか」
 「よくないよ」

 先輩は山盛りキャベツをよけて大きなとんかつひときれをつまみあげる。


 「俺はとんかつを頼んだの。とんかつが食べたいと思って、とんかつ頼んだの。胃袋はとんかつを求めている」
 
 「……はあ」

 「とんかつが食べたいんだよ。キャベツついてくるとか意味わかんないね」



 そう言うと先輩は、ソースのたっぷりかかったとんかつを咀嚼した。

 
 とんかつ定食にキャベルの山盛りがついてくるのは、ほぼセオリーだ。
 だから、そんなこと不満に思ったことなんてなかった。
 食べ合わせ的にも、さっぱりしたものがついてくるってお得な感じするし。

 だけれど、君原先輩はちがうのだ。

 純粋にとんかつが食べたい先輩にとって、黄緑色の野菜はただの邪魔にしかならない。


 
 やっぱり、君原先輩は変わっている。

 私は、豚肉のうえにキャベツを載せて、くるりとひとまきすると、そのまま口にほうりこんだ。


 あまじょっぱい肉の食感に、しゃきしゃきと混ざる咀嚼音。



 あれ、あたしが欲しかったのってどっちだっけ?


 

 
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社会的動物 ( No.17 )
   
日時: 2015/05/22 22:47
名前: 七川絢 ID:MDwVOAt2




 にんげんは、しゃかいてきどうぶつである。


 らしい、のでとりあえず一人では生きてけない。
 と、いうことになっている。
 いまのところ。


 明日の予定を確認する。
 脳内で何度反芻しても、やっぱり、間違いない。

 バイトのシフトは入ってないし、日曜だから学校はないし、つまり、これといった用事がない。
 ひとりぐらしの身にとって、暇というのはなんとも恐ろしいものである。
 
 別に、心底困るわけではない。

 ネットして、スマホいじって、食べて、寝て、ぐーたらしてたら一日はあっという間にすぎていく。
 うん、ほんと、あっとゆーまに。

 便利すぎる世の中には、労力もさしていらない暇つぶしがこれでもかとばかりにあふれていて、
 それは俺たちにとって、ひどく都合がよい。


 そしてそれは同時に、ひどくこわい。


 
 一人で生きてけないくせに、一人で生きてけるような顔をして歩いてしまっている。


 呼吸し、咀嚼し、歩行し、睡眠している。


 人間は、社会的動物である。



 自意識が肥大して殺されそうだな、と思って、
 
 いっそ息絶えてしまいたいと願い事しながら、目を閉じた。


 







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せかいはまるい ( No.18 )
   
日時: 2015/06/04 21:20
名前: 七川絢 ID:SYPhaBQE




 ああ、ばっかみたい!


 よくできた不幸な物語。

 二十歳すぎればなんとやら。


 
 悲しみさえも、苦しみさえも、憂鬱さえも、暇つぶしの一端で。
 
 揺れてるこころ抱えて、忙しいんですいま、って受話器片手に平謝り。


 どうか、どうか!

 あたし以外のみんなみんな、しあわせになーれ。

 
 お花畑に囲まれて、にこにこにこにこ笑ってやるから。



 ああ、ばっかみたい!

 愛されたい、けど愛さない。愛されたい、けど愛せない。

 
 だから左手の薬指はいらないと思うんですよう、ねえ。

 切っちゃおうか。




 世界の片隅でひとりぼっちだとおもっていた。

 が、世界はまるいので片隅などなかった。


 放っておいてほしくて、耳ふさいで、目とじて、さけんで、さけんで、なきさけんで、



 もういやだよって涙流せば、


 もういやだねって何の救いもない


 地球一周まわってみたけど、なんにもなんにもなかったよって


 向かい合うあたしが下手くそな慰め方しか知らないようで。



 

 
 


 
 

 
 
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つまづいた石のかたち ( No.19 )
   
日時: 2015/06/15 20:36
名前: 七川絢 ID:4OadWdmc



 つまづいた石のかたちを知らないように、

 立ちあがった理由を僕たちは知らずに歩いてゆくんだ。


 泣いたりしないでってあなた言ったけど
 涙だけがこの鼓動の証拠になるべくものならば


 ぶたれた頬の温度を知らないまま

 すくい損ねた金魚の尾ひれに掴まれないまま
 
 僕たち大人になっていくんだ。



 不幸になれ。

 幸福になれ。


 その方法など、知るものか。


 
 遠ざけたぬくもりのやさしさも

 かみしめた悔しさの後味も

 僕たちぜんぶ背負って生きていかなきゃなんだ。


 怖い怖い世界

 暗い暗い世界


 
 つまづいた石の形を知らないように、

 泣いて生まれた意味なんてわからないように、


 僕は穏やかに微笑むことができる訳を知らないで生きてくんだよ。




 

 



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