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[1108] 夢電
   
日時: 2014/03/08 00:21
名前: ID:2As2COro

疲れた時にこそ大好きなことを。
眠れない夜に、、

 @ 無題
メンテ

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Re: 無題 ( No.1 )
   
日時: 2014/03/05 02:26
名前: ID:UcTDhMWQ

【1】



――りりりり、りりりり。



かすかな電話の音とともに、この映像はいつも浮かんでくる。その映像は少し不鮮明であまり色味がなく、まるで昔の白黒映画を見ているようなのだ。

それはしとしとと雨が降る夜、大通りに面した道を僕がひとりで歩いているところから始まる。この映像は歩く僕の視点から見たものであるらしい。遅い時間のせいか大通りには全くひと気がなく、時節濡れたアスファルトの上を車が走って行くぐらいで、とても静かだ。

そんな夜中にくたびれたこうもり傘をさして、僕は一体どこへ向かっているのだろうか。会社帰りだったような気もするし、夜風に当たりたくなって気まぐれに散歩に出たのだったかもしれない。よく思い出せない。


しばらく歩いていると、ふと自分が歩く歩道の先に電話ボックスを見つける。


電話ボックスが放つ人工的な青白い光が痛いくらい眩しい。僕は自分がもぐらか夜行動物かなにかになったような気分になり、目をしょぼしょぼさせながらそれにどんどん近付いていく。
数十メートル先にある細長いボックスはまるで闇夜に浮かぶ棺のように見えたが、僕は不気味というより幻想的だなと頭の片隅で思いながら、それぼんやり見つめていた。

だんだん近づいていくとその中に人がいることに気付く。
こんな夜中になんであんなところに人が、どきりとする。
怖い。
しかし僕はまるで光に吸い寄せられる夜光虫のようにその光にひきつけられて、歩みを止めることが出来ない。

しかし十メートル程ぐらいまで近づくと、それが見覚えのある人物だということに気付く。


あ、彼女だ。


それはまごうことなき僕の恋人である彼女の姿だった。


小柄で華奢な彼女。色白で艶やかな黒い髪には少しウエーブがかかっている。まるで人形のように愛らしい自慢の恋人。

そんな彼女が一体どうしてこんなところに?
恐怖が消えて、僕の心には疑問が沸き起こってくる。

少し小柄な彼女はガラスの向こうで右手に紙袋を提げ、左手に受話器を持って耳にあてている。
誰かに電話をかけているようだ。相手の応答を待つかのように口をつぐんで動かない。

こんな時間になぜ……。

うつむき加減な彼女の横顔をぼうっと見つめていると、意識の遠くの方からまたあの音が聞こえてくる。

――りりりり、りりりり。

その音はだんだん近づいてきて鮮明になってくる。すると電話ボックスの中の彼女がはっとこっちを向いた。
彼女は僕に驚きもせず、そのままじっと僕を見つめる。彼女にもこの音が聞こえているのだろうか。

りりりり、りりりり――。

僕はいつの間にかその場に立ち尽くして、彼女の目を――長い睫毛の奥の熱っぽく潤む黒いの瞳を見つめ返していた。


りりりりり、りりりりり――。


音とは正反対にその光景は徐々にぼんやりとしていく。輪郭があいまいになり、闇と光の区別がつかなくなる。
電話の音だけがこだまする――。




メンテ
Re: 無題 ( No.2 )
   
日時: 2014/03/07 03:31
名前: ID:L3oJ6/ZA

【2】


――……ーン、ゴーン、ゴーン


重く少しこもった様な鐘の音が闇の中でこだまする。

そう。音はこうしていつも遠くの方からやってくる。少しずつ少しずつ近づいてくる。
それを僕は世界と世界のはざまで聞いている。僕の知っているどこか懐かしい世界。
もう少しで思い出せそうなのに。この音は……この場所は……ううん、もどかしい。
 
 んん……。
 
それとともにだんだん食器がカチャカチャとふれ合う音が近くに聞こえてくる。


その音に僕は目が覚める。


閉じていた瞼を開けると年季の入った柱時計がぼんやりと見えてくる。
時計の針は午後三時をさしている。柱時計が最後に出したゴーンという音が尾をひき消える。

 あれ……もう三時だ。

 
そこで僕は自分がソファでいつの間にか眠っていたことに気付く。
少し大きめの立派な一人掛けのソファ。僕はそれの左のひじかけを枕にして、まるで胎児の様に体を丸めて――足は少しはみ出してしまっているが――眠っていた。
体を起こそうとすると体中がキシキシと痛む。

あたたた。

うめきながらソファに座りなおすとカウンターの奥の若い女性と目が会う。

あ。

その瞬間僕はふっと顔が真っ赤になる。
僕に気付くと彼女は手にティーカップを持ったまま少しすまなさそうな顔をした。

「ごめんなさい。お茶の支度をしようと思って。起こしてしまったわね」
「いやいや、全然……」

二十にもなってこんな恰好で寝ていたところを彼女に見られてしまった。
僕が恥ずかしさでごそごそしていると、彼女は慣れた手つきでお茶の準備を再開する。



ここは彼女が経営しているカフェである。といってもここは三階建てのアパートで彼女の本当の仕事はアパートの管理人である。

アパートの入口はカフェの入口であり、カフェの左奥には階段がある。そこを昇ったところの廊下に各フロア三つずつ部屋があり、そこが僕らの住まいだ。トイレと風呂場は一階の入口の正面奥のドアの先の廊下を左に曲がったところにある。廊下を右に曲がると管理人である彼女の部屋だ。
トイレと風呂場は男女別れて共同で少し不便だが、家賃を払えばカフェで彼女が毎日三食作ってくれるし、しばしばコーヒーやケーキを出してくれる。

かといって家賃が高いわけではない。でもカフェを利用するのももっぱらここの住人でめったに客は来ない。(料理が不味いわけではない)しかし彼女はお金には困っている様子がない。彼女はアパートの管理人とカフェの他に特に仕事をやっているわけではなさそうだが……。

住人の噂によるとどこかの大富豪のお嬢様らしい。

彼女の家族構成について誰も知らない。しかし確かに彼女にはそう思わせるところが多々ある。
一階のカフェはセンスが良く、また高そうなアンティークな品々がそこここに置いてある。

暖色のライトが入口の右側にある年季の入った木製のカウンターテーブルを照らしている。入口の左側に三つ備え付けてあるツイードの暖かいソファと黒光りするテーブルも素敵だ。
クリーム色の壁紙には綺麗な緑色のツタが描かれており、彼女はこの植物はアイビーというのだと言っていた。しかしその壁紙は煙草のやにで少し黄ばんでいる。しかし掃除はまめにいき届いており、木製の床には磨きぬかれた艶が出ている。


また彼女は美しくて気品がある。彼女は僕より五つ年上だが、人形のように可愛らしい顔をしていて、色が白く、黒い髪にはウエーブがかかっていて、本当にどこかのお嬢様のようだ。少女の様に華奢だが、大人びた横顔からは彼女の思慮深さが見て取れる。


もし彼女が僕の恋人だったら……。


うっとりと想像するがすぐにそれを打ち消す。

彼女に僕なんか釣り合わない。


でも彼女に惚れているのは僕だけではないだろう。ここには僕を含めて五人の住人がおり、全員男である。そして皆彼女に話しかけられると少しそわそわするのだ。


そんなことをぼうっと考えていると、いつの間にか僕は彼女の顔をじっと見つめていたらしい。
彼女は不思議そうな顔をして僕を見つめ返している。

「どうかしたの?」
「――いや!なんでも……」

そう、というと彼女はくすりと笑って人差し指を左頬にあてた。
僕がポカンとしていると彼女は天使のように微笑んだ。

「ユタさん、ほっぺにソファの跡がついてますよ」
「……あ」

僕はさっと頬を隠す。手で左頬に触れるとツイードの編み目模様がくっきりと浮かんでいた。
僕が再度真っ赤になる。すると彼女は言った。


「さあ、お茶の支度が整いました。皆さんを呼んできましょう」


メンテ

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