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[1083] 御厨短編集
   
日時: 2014/02/25 05:33
名前: 御厨 ID:b/qytewE

 いらっしゃいませ。管理人の御厨です。
 ショートショートながら、作者がものすごく気紛れなので文体は日によってころころごろごろ変わりまくります。
 もともと詩のつもりで書いていたので基本的に短文形式ですけど、気が向いたら長文。
 もしかしたら右下から左上に綴られる物語になるかもしれません。
 あとここにログ作をリメイクして投稿しているので(ブログに載せたり、スレッドとして立たせるほど立派なものではなく)連作短編もやや多いと思われます。
 それでも良いという方だけ下にお進み下さい。

 それでは失礼しました。


■最近の作品傾向
 ・ファンタジー
 ・恋愛


■まとめ
>>07 作品紹介

■亡霊の鎮魂歌
 □蝉の残響
>>01 黒の亡霊
>>13 未来を信じて、飛び出しましょう。
>>17 果てしない孤独
>>18 今生の別れ
>>26 今から百年前のちょうど今頃に


>>02 綺麗な夢
>>11 子供と大人
>>14 泣き虫少年
>>19 英雄の歌
>>22 さようなら、愛しい私の天使よ。
>>23 誓い
>>24 星空の旅人
>>25 至高の門
>>29 野菊、枯れて。
>>30 一つ後ろの座席
>>31 醜悪の心
>>33 友、来りて
>>34 友、来りて

■不枯の花
>>06 空虚
>>08 木枯らしが吹いたら

>>05 あの日によく似てる
>>09 参拝(1)
>>10 参拝(外伝)

>>15 如月の日に
>>16 霜月の再会

 □宝木の社
>>53 前書き
>>蓮華郷
>>蝉時雨
>>楓の小径
>>逢魔が時


 □お題 「雨の季節」
  ハクマさん×シオンちゃん+ホウランさん(ホーギ様はネタだけ登場)

 [お知らせ]
 物語の大半は終わってしまいましたが、別サイト「作家になろう」に投稿スレッドを設けました。「恋しい太陽」以降はこちらで連載したいと思います。二度読みでも楽しめるよう、誤字脱字の修正、物語の追加も行いました。まだ移転途中ですが、完成したらこちらにすぐに投稿するのでもし良ければ覗いてみてください。
 念のため、一つのお題が完成次第。こちらに順次投稿していきたいと思います。

 移転先:h ttp://ncode.syosetu.com/n3387bj/


さよなら日傘よろしく雨傘
色とりどりの傘に落ちる
てるてる坊主の外れない期待感!
梅雨パネェ
犬が捨てられてた猫が捨てられてたと、それを両脇に抱えるあなた(全二話)
曇天を割る雷がきれいできらいで
世界に誰もいないみたいな静けさに歓喜しそう
泥まみれを這う(全四話)
「こんなじめじめな今日はひきこもるのじゃ」
透けたシャツと透けた本音
挿話:The umbrella waiting for you(全三話)
紫陽花を通学鞄にぶっさして通学路を闊歩する(全三話)
狐の嫁入りには夢がある(全三話)
たった三十分の通り雨で予定が全滅(全四話)
恋しい太陽(全五話)
雨粒の滴るサバイバルナイフ
「雨の音と君の愚痴を合わせて聞きたくなったのさ」
晴れなくてもいーじゃん

(番外:洗濯物が落下落下落下の連続コンボ)

 こちらはネタ・お題掲示板・ながつきさんの「安全ピンでさようならさようならさようなら、」より拝借しました。
メンテ

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恋しい太陽 ( No.68 )
   
日時: 2012/10/20 11:55
名前: 御厨 ID:14e/B7DI

 深い闇の奥にキラキラと月で輝く水面が見える。
 もっと覗き込めば真っ白な腕が掴んで深い闇に引きずり込まれてしまいそうだ。水路の奥はそれほど真っ暗で、ほとんどなにも見えない。川のせせらぎも、轟々と鳴り響く木々の唸りも、夜の深い闇も、特に怖くはなかった。
 ただ探し物が見つからないのが、ひどく残念だった。
「やっぱりないよねー」
 はあ、とため息をこぼす。
 この辺の水路は全てこの川で繋がっている。ここに来るまでにアレはなかったし、どこかに引っかかってなければこの水門で引っかかるはずなんだけど――やっぱり発想が滅茶苦茶すぎた。
 共犯者はきっと証拠を川に捨てた。一週間前の夜遅く、人の少ない時に。
 理由はいろいろあるけど、一番の理由はそれが手っ取り早かったからだ。基本的に証拠は自分で処理しないと気の済まない人なので、攪乱用のダミー以外のほとんどは彼が処分している。けど、焼却処分は法律で禁止されている。火炉も使われた痕跡がない。土に埋められたり女性にプレゼントされたら敵わないけど、それ以外でもっとも効率がいいのが川に捨てることだ。
 なのでアレが引っかかりそうな中洲や浄水地を調べたけど、結局見つからなかった。
 本当は証拠はもう二つあったけど、一つは私の目の前で握りつぶされてしまった。もう一つは決定打にはならない。
 やっぱり警察に通報したほうがいいかもしれない。けど、そうなったら早々に高飛びする。そうなる前にどうしても彼の前に立ちたかった。
 彼に認めてもらいたいのだろうか、私は。
 きっとそれは半分正解で半分不正解だ。私は彼を尊敬していると同時に嫌悪感も抱いている。あの真っ赤な線の向こうを渡ったあの人を、今でも許すことが出来ないでいた。きっとそれは今も変わらない。
 タイムリミットは明日でそれ以降、あの人が姿を現すことはない。そんな確信が私の中にある。
「参ったね、こりゃ……」 
 気づくのが遅すぎた。それが最大の敗因なんだと思う。
 ポリポリと頭を掻いたとき、ふと対岸の電柱の下に小さな黒い影が佇んでいるのが見えた。こんな時間に子供だろうか。なんだか目が離せなくなって、自転車に乗ってそこまで行った。橋を越えて、少し進む。ゆるゆると大きくなる影に、ハッと息を飲んだ。
 あの黒い豹だった。
 まるで彫像のように静かに佇み、川の水底をじっと見つめている。白い光が黒い肌を輝かせ、しなやかな尻尾は地面に垂れていた。こんなに近くにいるのに、存在感がまるでない。きっと対岸を覗こうとしなければ気づかなかった。
 彼は私の存在に気づくと、翡翠の双眸を私に向けた。夜の闇でも、瞳は緑色に輝いていた。
 やがて豹はふたたび真っ暗な川底へと視線を落とした。釣られて、私も川底を伺う。白い光の奥には砂浜があり、ゴミがたくさん打ち上げられていた。
 もしやあのなかに、アレがあるだろうか。ふと淡い期待が生まれた。辺りを見渡すと幸いなことに少し離れた場所に、石畳にはめ込まれた鉄の梯子を見つけた。それを持って降りる。砂浜はゴミだらけだった。
 ガラスの破片、プラスチック、アルミ缶、タイヤも転がってた。
「たしか豹が見てたのはこのあたりだよね」
 明かりを頼りに慎重に川の際へと進んだ。ここで川に落ちたら堪らない。ハッと息を呑む。ゴミに混じって、白いコサージュの付いた茶色のパンプスが一足置かれていた。慌ててカバンから写真を取り出して、足の裏を確認する。守衛さんがなにかの役に立てればと撮ってくださったものだ。
 靴のサイズは二十四・五センチ。守衛さんが言っているサイズよりやや大きいけど、写真に写った足跡とこの靴の模様はたしかに一致している。
 もしかしてこれが事務室に入ったときに使われた靴だろうか。
 高鳴る鼓動を抑えながら、もときた道を駆け上がった。豹は変わらずそこにいて、パンプスを見るとわずかに目を細めた。
 この豹は一体、何を考えているのだろう。どうして、このパンプスをじっと見ていたのだろう。
「取って、きた……」
 高揚とわずかな恐怖の混じった声で彼に話しかけた。
 豹に言葉が通じるなんて聞いたことないけど、なぜか言わずにはいられなかった。彼はのそりと立ち上がると、座り込んで動かない私に近づいてきた。翡翠の瞳が、私の顔を覗き込む。ほっそりした体は綺麗だと思うのに、近くまで来ると怖かった。
 やっぱり逃げてしまったほうが良かった。どうして、私はこの豹を無視できないのだろう。
 後悔で頭が真っ白になったとき、ふと下からの圧力で左腕が持ち上がった。
「え!?」
 なんと、豹が私の左脇のしたに潜り込んでいたのだ。かと思うと、するりと私の体に絡みつき、右脇から顔を出した。さきほどの神秘的な雰囲気はどこにいったのか。彼は私の左脇から体を抜くと、パンプスをどけてスカートの上に頭を乗せた。
 そっと頭を撫でてみる。短い黒毛は猫とは違った手触りで、とても気持ちよかった。豹はしばらく身を固くしていたけど、やがて少しずつ緊張を解していった。三角の耳も伏せられていて、気持ちよさそうだ。
 柔らかな体もとても暖かい。
 これはもしかして――いや、もしかしなくても、甘えられているのだろうか。
 おずおずと三角の耳に手を回すと、難なく受け入れてくれた。試しに首周りを撫でてみると、くすぐったいのかゴロゴロと喉を鳴らした。まるで猫みたいだ。おかしくて笑ってしまう。
 身体に手を回すとちょっとくすぐったいのか、批難がましく私を睨んできた。けど、しばらくしてからまた撫でると、「仕方ねーな」という感じで睨むことはしなかった。
 本当はふわふわの尻尾や足も撫でてみたかったかったけど、これ以上やったら怒られそうなので我慢した。
 本当に不思議な時間だった。以前に雪豹を撫でたこともあったけど、腕白な子だったこともあって猫パンチばかり繰り出されてこう上手くはいかなかった。
 けどこの子は、見た目よりもずっと大人しくて、性格も優しい。
 結局この手触りが手放せなくて、豹が離れていくまでずっと一緒に遊んでしまった。



 ***

 最初はちょっと紫苑ちゃんを導いて終わりのはずだったのですが……(私が)ちょっと溜まっていたようです(´・ω・`)

 恋しい太陽、終了です。
 二話をぎゅっと圧縮して一話にしてみました。それにしても最初はほのぼの恋愛で、ミステリー。たまにアクション……一体この作品のジャンルはなんなのか!?
 作者が一番疑問です。
メンテ
雨粒の滴るサバイバルナイフ(1) ( No.69 )
   
日時: 2012/10/08 23:40
名前: 御厨 ID:onnDR1kg

 青い山の向こうから、オレンジ色の光が大空へと広がっている。
 初秋の肌寒さにブルリと体を震わせながら、長い廊下を進んだ。人気のない学校は空気が澄み切っていて、どこか神秘めいた清潔感がある。割りとこの空気が好きで、たまに早起きして学校に来ることがあった。
「よお、来ていたのか」
 ふと図太い男の声が聞こえた。振り返ると、柴田が立っていた。
「早起きできたので、演劇の練習をしようと思いまして」
「真面目なことで。ったく、魔法使いと脇役だろ? 適当に力抜いてやらないと最後までもたないぞ?」
 柴田が呆れたように苦笑する。
「昨日、先生のせいで全然練習できなかったので」
「さり気なく私のせいか? 最初に抜け出したのはお前だろ?」
「柴田の顔。明らかに生徒をいびって楽しんでいました」
「気のせいじゃないか?」
 唇を尖らせて抗議する私に、柴田は適当にいなした。ふと冷たい沈黙が流れる。
「柴田先生、いま、時間はありますか?」
 先に口を開いたのは私だった。ちょっと驚いたような顔で柴田が私を見る。
「珍しいな。いつもは俺のことを呼び捨てにするくせに。……まあ、あるといったらあるが」
「じゃあ、朝礼までの一時間。ダンスの相手を手伝ってもらえますか。ダンスには自信があるって前に言っていましたよね」
 柔らかく笑うと、彼はまた苦笑した。
「ったく、余計なことだけはしっかり覚えているな」
「柴田のファンなんで」
「そりゃ、初耳だな」
 彼は楽しそうに口元を緩ませると、畏まったように胸に右手を当てて頭を垂れた。
「じゃあ、付き合ってやるかな。可愛い栗色の髪のお嬢さん」




 静かな第二体育館裏に軽やかなステップが響いている。
「わー……上手ですね。私くらいの年齢を相手にするの、初めてじゃないでしょ?」
「いやいや、このくらいはだれでも踊れるさ。紫苑だって滅多に踊る機会なんてないだろうに、上手くステップが踏めているじゃないか」
「相手の男の子が丁寧に教えてくれたんです。けど、プロの人たちのダンスはもっと上手なんですよ」
 右にステップ、左にステップ、クルリと柴田の腕で一回転。静寂に包まれた体育館に、軽やかなステップが刻まれてゆく。柴田はヒゲの生えた口元をほころばせると、薄く口を開いた。
「なぜ、私を誘ったんだ?」
 柴田の聡明な瞳がまっすぐに私を見る。
「今日、早くに学校に来たのも単なる気まぐれじゃない。私がいつも早めに学校に来ているのを知っていたからだろ」
「……柴田に、今回の事件で聞きたいことがあって」
「私はお前に聞きたいことなどないが」
 私は逸る心臓を抑えながら、まっすぐに彼を見上げた。余裕たっぷりな、感情のほとんど読めない担任の顔がそこにある。
 それが憎たらしくて、ちょっと悔しかった。初めて会ったときから、彼の心が読めなかった。二重にも三重にも張られた分厚い壁のようなそれは、ハクさんとはまた違った拒絶が感じられる。
 けど、だからこそ、気合が入った。
「昨日、守衛さんに鍵を盗まれた日のことを聞きました。私たちの豹騒ぎのことも、その直後に鍵が盗まれたことも」
「守衛さんが話したのか?」
 ちょっと意外だと言わんばかりに、柴田の声が低くなる。
「はい。きちんと説明したら、答えてくださいました。最初にテラスの釘を抜いた夜、守衛さんが学校を閉めたのは夜の六時四十分ごろだったと」
 守衛さんはたしかに確信を持ってそう言っていた。
 あの日は夕方頃から天候が崩れていて、長く住んでいる人たちなら時期に土砂降りの大雨が来ることは分かっていた。葵沢地区はとんでもない田舎で、交通の便が悪い。だからこそ、部活などで帰りが遅くなる生徒を早々に帰らせて、大雨に巻き込まないようにした。
 青山先輩もそのうちの一人だった。
 あの日。香菜にストーカー行為をしていたことを共犯者に知られ、脅されていた先輩は、そいつの命令で学校に遅くまで残っていた。おそらく演劇の練習でもしておけと言われていたのだろう。
 それが予定通りだったなら、先輩には一時間半もの空白の時間が生まれて、香菜の殺人未遂の犯人として捕まったはずなのに。
「共犯者の誤算の一つは、二度目の事件の前夜に大雨が降ったことです。六時に部活が終わり、六時四十分に強制的に学校から追い出された青山先輩には、テラスの釘を抜く時間なんてほとんどなかった。釘は補強も入れて五十本以上ありますから、大道具係ではない先輩では間に合わないんです。つまりテラスの釘を抜いたのは先輩ではなく、共犯者。たぶん夜中に学校に侵入して、ピッキングで体育館の鍵を開けて侵入したんでしょうね」

――忘れ物があって家庭準備室に取りに戻った時に、舞台でシンデレラをやってた。なんか鬼気迫る感じで、全身からオーラみたいなのが出ててさ……すごい入ってはいけない感じだった。怖かったよ。

 真剣な顔で語った優。

――青山さんもよく夜遅くまで残って練習していたよ。

 嬉しそうに、ちょっと困ったように語る守衛さん。
 二人が目撃したのは、みんなが帰宅したあとにだけシンデレラを演じる先輩だった。香菜からシンデレラの座を奪えるという期待と、見えない共犯者に道徳に反する行いを託すことへの不安と罪悪感。ごちゃまぜになって気が狂いそうで、演劇に縋ることでどうにか平常心を保ち続けていた。
 昨日の時点で、先輩は疲れ果てていて抵抗する気すら失くしていたのだろう。
「でも、それも自業自得です。最後はどうであれ、『次期部長が二年の音楽祭で主演をやる』という伝統を知らなかったのも、最初にストーカー行為を始めたのも青山先輩ですから。けど、先輩は体裁と受験ばかり気にして自分のやったことの重さを、まったく反省しようとしなかった。共犯者は目的のためなら人を殺せることまで知っておきながら周囲に相談すらせず、口にする言葉は『自分は悪くない』『すべてはあいつの命令』と自分の罪を棚に上げることばかり。被害者にまでなりきって……そのせいで、もっと悪い状況を自分で作り出してしまった」
 ポツポツと、冷たい雫が袖に当たった。空を仰ぐと、小粒の雨が降りだしていた。
 至近距離で見る柴田の顔は相変わらず無表情だ。けど、私の肩を掴む手にわずかに力が入っているように感じるのは、きっと気のせいじゃない。
 動揺しているのか。はたまた、自身にそれを話す理由が見つからず、困惑しているのか。
 けど、先ほどの明るい雰囲気がすでにないことだけは、確かだ。
「共犯者は本当に自分の目的のためなら、人を殺せる人でした。性格は狡猾で残忍、目的達成のためなら何通りもの計画を編み出し、何年でも猫を被れるような我慢強い人間でした。けどそんな彼にも我慢の限界があった。自身の存在を暴露されることだけは何があっても避けたかったはずなのに、先輩は共犯者のまえで公衆に暴露するという恐ろしいことをしてしまった。自身も殺害のターゲットに入っていると知らずに」
 ピクリと柴田の眉間に皺が寄る。
 亡霊という言葉にずっとステップを刻んでいたステップが止まる。
「それが、私とどういう関係があるんだ?」
 ようやく柴田が発した言葉が、どんなものよりも重かった。
「青山先輩を影で操った共犯者は、貴方ですね。柴田圭一さん……いえ、藤堂康介さん」
メンテ
雨粒の滴るサバイバルナイフ(2) ( No.70 )
   
日時: 2012/10/08 23:41
名前: 御厨 ID:onnDR1kg

 雨は徐々に激しさを増していった。
 私たちが傘をさすことはなく、ただお互いを睨みつけている。秋雨で濡れた制服はひどく寒いはずなのに気分は高揚していて、むしろ暑いくらいだった。
「全ての始まりは三年ほど前……ある集団自殺募集サイトから始まります。自殺だと保険はおりないし、両親家族を泣かせてしまいますから、自然な事故に見せかけて死にたい人たちにとってそういうサイトは魅力的に見えたのでしょう。十人ほどの人たちが集まりました。もちろん応募の一切は、口止めされているので調べようがありません。今回深く関わりのある事件は……たぶん、三年前の七月。ネットで集まった人達との旅行中、運転手がハンドルミスでガードレールを突き破り海に転落した事故。もちろん、それに偽かけた自殺です。夜半の郊外ということもあって救急隊が駆けつけるのが遅れ、同乗者は全員死にました」
 その言葉に、柴田は何も答えない。
 けど遮ろうともしない。しばらくの沈黙の末に、再び口を開いた。
「本物の柴田圭一さんもこの事故で亡くなり、救急隊が駆けつけるまでのわずかな時間に遺体は引き上げられ、別の場所に埋められました。たぶん他にもそういった人たちがいたと思います。そして空いた戸籍に、まったくの別人が柴田に成りすまして日本に侵入した。基本的に戸籍なんて引越しと結婚のときに気にするくらいですし、個人情報や銀行のパスワードなどはおそらく事前に調べていたんでしょう。彼は近親者も恋人もいませんから、職場を変えれば特に怪しまれずに済みます。
 そうやって藤堂は……柴田になりすまして、影で別の仕事をしていていました。そしていくつかの仕事をこなし、今回の仕事で生きている人間……羽沢香菜に目をつけた。
 香菜に目をつけた最大の理由は、青山先輩の執拗なストーカー被害を受けていたからだと思います。この中学校の中で香菜はもっとも命を狙われておかしくない人間でした。ストーカーに偽かけて通りすがりの男が香菜を刺したって、だれも疑問を抱きません」
 そう――今回の目的、最後の最後までわからなかったのは、共犯者の動機だ。
 香菜に嫉妬した人物による犯行にしてはやり口が巧妙だった。ただ殺したいだけなら通りすがりに扮して刺せばいい。どうせ死体が目的なのだから、わざわざ大事に扱う必要もない。そうしなかったのは、警察に自身の存在と三年前の事件がバレるのを恐れたからだ。
 そうなったらせっかく確保した安全な居場所が消えてしまう。それだけは避けたかった。
「幸いなことにストーカーは、香菜と非常に親しい人物でした。たぶんその人が香菜のロッカーのなかに隠撮の写真を入れている姿を偶然見つけたんでしょう。貴方は彼女を脅迫し、ストーカー行為を続けさせた。
 そして次に、柴田は器具庫の鍵を盗むことにしました。けど私が知る柴田は高いピッキング技術を持っているので、わざわざ鍵を盗む必要なんてありません。クレセント錠もダイヤル錠もなんのその。そんな柴田がわざわざリスクを冒してまで鍵を盗んだ。どうしてだと思いますか?」
「……ピッキングをするよりも鍵を盗んだほうが、確実だからか?」
「それもありますが、それだけではありません。今回の鍵は、彼が共犯に選んだのがまだ二十にも満たない自己顕示欲が強いだけの少女だったということです。少女が大きな舞台でプロ並みの悪役を演じることなんてできませんから、『台本係』はそれ相応の舞台を用意する必要があったんです。そして、その少女は同時に香菜に次ぐ第二のターゲットでもありました。その少女こそが……」
 そこで一度、深呼吸する。
 次の言葉は、詰まることなく口から出てきた。
「その少女こそが青山先輩です」




「貴方が事務室に女性物のパンプスを履いて侵入したのも、わざわざ足跡を残したのも青山先輩に悪役を演じさせるためです。彼女は演劇が得意でしたから貴方の台本通り、見事な悪役を最後まで演じてくれました」
「……だが、それでは矛盾しないか。青山が捕まったら、自然と共犯者の存在も明るみになる。それだけは避けたいはずだ」
 ふと柴田が口を開く。それに私は、「はい」とひとつ頷いた。
「けど、女の存在が明るみになることも計画の一部だったとは考えられませんか。おそらく貴方は、香菜の殺人未遂が最後まで失敗したときに備えて、もうひとつの計画……青山先輩の殺人計画も立てていた。鍵の盗難はその伏線だったんです。ストーカー行為が明るみになったとき、もっとも自殺しそうなのは先輩ですからね。
 ほかにも貴方は先輩にクレイジングオイルを盗ませ、殺虫剤を混ぜて水戸部くんに拾わせた。階段の転落事故のとき、香菜を東棟まで誘導するメールを送るよう先輩に命令した。あとは音楽祭の初日の朝に器具庫の鍵を先輩のロッカーに入れ、昼間に電話でテラスの釘を抜くよう指示した。それもこれも全て彼女を悪役に仕立てるためです」
 しかし、柴田は何も答えない。
 雨足がわずかに激しくなったきがする。頭から雨粒が滴って、視界が曇ってきた。
「悔しいけど、私たちはすっかり貴方の術中に嵌ってしまいました。気づいたときには証拠もほとんど消えていて、唯一最大の手がかりだった青山先輩の履歴も目の前で握りつぶされてしまいました。本当ならこうして告げることもできなかったと思います。
 けど、そこまでしても柴田の目的はあくまで香菜でした。予定では青山先輩が捕まるのは音楽祭の後で、彼女が共犯者の存在を明るみにしないのなら、仮に失敗で終わっても中学生の度が過ぎた悪戯ということで少しお灸を据えるだけで潔く終わらせるつもりでした。たぶん青山先輩にもそのように伝えていたと思います。
 ところが先輩は最後の最後で共犯者の存在を明るみにしてしまい、皮肉にも偶然その場にいた共犯者こと柴田の怒りを買ってしまった。第二の計画を実行せざるを得なくなってしまいました」
「……」
「貴方は今日、青山先輩を殺すつもりでしたね?」
 そして、最後の質問をした。
 言いながら、自分でも衝撃を受けた。三年前に柴田がすでに死んでいたこと。その事実を隠すために、色んなトリックが仕掛けられていたこと。香菜だけでなく、先輩までこの人のターゲットになっていたこと。
 柴田が少しずつ顔色を変えていくのに、自分でも驚かずにはいられなかった。
「月並みで悪いが、証拠はあるのか?」
「はい。鍵を盗む時に使ったと思われるパンプスを」
「あれを拾ったのか!? 捨てたのは一週間前だし、どうやってわかったんだ!?」
「あ、ええと……偶然、川に打ち上げられていて……本当にビックリでした。サイズはあの日に下駄箱から盗まれたパンプスが一足あったので……」
「けど、それだけじゃそれを使ったとはわからないだろ。今回の事件は、私以外の教務員でも出来る。どうして私だと思った?」
「わかりますよ。私は守衛さんが撮った足跡の写真とあのときの状況だけで、犯人は貴方だと確信を持って言うことができました」
 ハッキリと私は頷くことができた。
 それに、ふむ、と柴田が頷く。
「これを話すにはいっしょに鍵の盗難のトリックを話すことになりますが、いいですか?」
「ああ、いいぞ」
 柴田がひとつ頷く。
「……私、守衛さんに聞いたんです。先週の火曜日、最後まで学校に残っていた生徒と先生は誰ですか? と。そしたら守衛さんは、演劇部の私たち四人と守衛さん、顧問の先生。男性教員二名。柴田先生ですよと答えたんです」
「それだと、私が別のやつに扮している可能性があるじゃないか?」
「はい。私が藤堂という人間が柴田に扮していると確信を持ったのは……先週の火曜日の晩の鍵盗難の話を聞いた時です。私たちが豹に襲われたとき、犯人は偶然それを教務室の窓で見つけたんです。それで慌てて警察に通報しようとして……けどそれでは間に合わないと判断して、守衛さんに電話したんです。そのとき犯人は『柴田』として電話したのに、守衛さんは耳が遠いからご近所の人だって勘違いしちゃったみたいですね。
 けど犯人はそれを好機と捉えた。電話を切るとすぐに、下駄箱に行って自分でも履ける女性物のパンプスを一足ほど拝借した。パンプスにしたのは、靴底はローファーに似ていますがローファーよりも靴の口が大きいので実際良い足が大きい人でも履けるからです。
 知ってますか? その人の身長から靴のサイズって予測できるんですよ。例えば演劇部の先生は平均身長が164.5センチなんで、足のサイズは24.5センチ。そして犯人の推定身長はおよそ175センチ前後。たぶん靴のサイズは25.5センチ。差は一センチ。無理やり履こうと思ったら履けるんです。けど実際はすごく難しかった。
 サイズの小さい靴を履くとき人はかかと部分を踏んで潰すから、それで一メートル上の窓枠に足をかけたら……当然踏み方が甘くなります。それで柴田は窓枠を越えるときに滑って転び、鉢植えをひっくり返した。足跡だけでなく転倒跡が残っていたのもそれでですよね?
 顧問の先生は男性の声は出せませんから除外されます。次に男性教員の足のサイズは二人共180センチ、靴のサイズは26と27センチなので二人はどうやっても履けません。そうなると柴田しか残ってないんです」
メンテ
雨粒の滴るサバイバルナイフ(3) ( No.71 )
   
日時: 2012/10/08 23:42
名前: 御厨 ID:onnDR1kg

 静寂に雨の音だけが響いている。
 目の前の柴田に普段のような快活さはもうなく、代わりに剣のような鋭利な悪意が吹き出ていた。心臓の鼓動がうるさい。鷲掴みにされて、無理やり動かされているみたいだ。
 もうそこに、柴田圭佑という存在はない。いるのは、藤堂康介だ。
「……昨年の秋に、君とこの学校で再会したときのことを覚えているか」
「はい」
 できるかぎり、気丈に答える。
 不安なところを見せたら一気にこの人のペースに巻き込まれる。それが怖かった。
「あの楓の並木道で、栗色の髪を揺らしながら廊下を闊歩するお前を見たとき、私は初めて神というものを信じたくなった。かつて私が誘拐しようとした娘が、成長して私の生徒になるとは思わなかった。運命とはなんと皮肉なものだろうな。
 これは言い訳かもしれないが、私はお前に危害を加えるつもりはなかった。あのころの依頼人との契約はすでに打ち切られていたし、君はまだ中学生だからね。私の仕事を邪魔するつもりがないのなら、適当に放っておくつもりだった」
「……それなら、最初からやらなければ良かったじゃないですか。どうして自分の生徒を殺そうとしたんですか?」
 ずっと疑問だったことを口にしてみる。
 藤堂はわずかに困ったように、頭を掻いた。
「この辺の病院に臓器の弱い子がいてね、依頼人はいますぐ適合する臓器が欲しがっていた。かなりの金額を積まれたし、なによりここら辺りで条件が揃っているのはあの二人だけだったから……困るんだよ。ここを失くすのは」
 その言葉に私はぎょっと目を見開いた。
「その子は死ぬんですか?」
「ああ、このままだとな」
 言いようのない不快感が胸にこみ上げてくる。
 たしかに香菜も青山先輩もドナー登録はできる。相手が瀕死の状態ならば、優先的に臓器移植できるケースもあると聞いたことがある。もちろん、血液型や臓器の健康状態も気にしなくてはいけないだろうけど、それもクリアしているのだろう。
 けどそれは、裏を返せばそれだけ危機迫った状況だということだ。
 今日明日ということはないだろうが、臓器のない人は着実に弱っていく。――けど、それでも。
「それでも、貴方が殺していい理由にはなりません」
 迷いを振り払うように、冷たく言い切る。
 クスリと冷たい笑みを湛えた。
「そうだ。仕方ないことだ。私たちは神じゃない、お前がどれほど努力したところで、すべてを守れるわけではないし、私がだれかを殺していい理由にもならない。それはただの傲慢で愚かな考えに過ぎない」
 確信に満ちた声だった。
 そこに大人の厭らしさも、穢らわしさも含まれていない。本心からの言葉だと知り、ますます目を見張った。
「分かっているなら、どうしてこんなことを?」
 問いかけると、彼は苦笑を更に深めた。
「さっきも言っただろ? 金だよ。私たちみたいな人種には、とにかく金が必要なんだ。サイトを運営するのも、自殺に見せかけて他人から戸籍をいただくのにも、な」
「……今からでも遅くありません。どうか、足を洗ってやり直してください」
「日陰の世界を知らないやつに言われても、全然説得力がないな」
 たしかに、私は日陰の人間ではない。
 彼の苦労も知らないし、おそらく彼が日向に戻るのは無理だ。彼もそれを覚悟してやっているのだろう。それでも、この人は中学生である私たちを殺さないようにしたり、見逃そうとしたりしてくれた。決してただ残酷なだけの人ではない。
 綺麗事かもしれないけど、戻ってきて欲しいと願ってしまう。
「だが、お前さんに知られたとあってはもう計画も無理だろうな」
「え? ……っ!」
 彼がおもむろに伸ばされた手を、右手で弾いた。
 先ほどの余裕のない表情が一転して、恐ろしいほど穏やかな笑みを浮かべている。いつもの柴田とまったく同じ笑みだ。
「もしかして、私を説得するつもりだったのか? だとしたら、私は説得されないし、捕まるつもりもない。お前のことはかなり気に入っていたんだが、いっしょに来てもらうよ」
「……そんなことになったら、貴方にも警察の目がいきますよ」
「生憎、偽装は得意なんだ。青山には遠山が指図したことにして、お前は追い詰められて失踪。ってことにする」
 藤堂の瞳がギラリと妖艶に光る。
 本気だ。彼は本気で私を誘拐する気だ。そう思うと、ぞっと冷や汗が吹き出た。
「月並みですみませんが、いやだ、と言ったら?」
 淡い抵抗だった。
 彼は眉を潜めると、わざとらしい大きなため息を一つついた。
「私は、こうしなくてはならなくなる」
 おもむろにジャケットの内ポケットから、細い布袋を取り出す。中にはひと振りのサバイバルナイフが入っていた。彼はプラスチックの鞘を外し、ナイフを抜く。銀の輝きが小粒の雨を浴びて、輝いていた。
 サイバイバルナイフが出てきたことに、私は息を飲んだ。
「……言っておくが、偽物じゃないぞ。お前を傷つけることくらいなら簡単に出来る」
「……本気ですか? ここは学校ですよ。あと十分もしないうちにだれかがここに来る。そうなったら貴方はタダでは済まされませんよ?」
「ああ。だが、お前を放っておいても結果は変わらない。なら、せめてこの仕事だけでも完遂させて、さっさと逃げたほうがいいだろ」
 藤堂がハッキリと言い切る。
 迷いのない目だ。思わず、右手のスカートのポケットに触れる。朝布越しに、携帯電話の感触があった。上手くいけば逃げきれるかもしれない。遠くの方より生徒と先生の喧騒が聞こえる。
 ああは言ったが、このナイフはあくまで脅しだ。本気で刺すつもりはない。
「私は、行きません!」
 叫ぶなり、私は後ろへと駆け出した。
 曲がり角に手を付け、先の生徒へ向かって叫ぼうとする。そのとき、強い力が私の左手を掴んだ。口が塞がれる。捕まってしまった。
 すぐに振り払おうともがく。チクリとした感触が二の腕に走って、ハッと息を飲んだ。右腕の制服が破れて、真っ赤に濡れていた。ナイフが肘に当たったんだ。ずっと遠くにあった死を身近に感じて、恐怖で体が竦む。
「……いやっ!」
 思わず、悲鳴を上げる。
 ダメだ、捕まる。
 そのとき、ふわりと一陣の風が吹いた。
 藤堂がいきなり悲鳴を上げたかと思うと、ナイフを落として、喉元を抑えてバタバタとうめき声を上げた。腕の高速が解かれた私はすぐに彼のそばから離れる。いったい、何が起きたというのだろう。
 呆然と後ずさった私に、ふと強引な力で腕を引かれた。
 まさか、近くに藤堂の味方がいたのか。
「きゃっ……いや!」
 思わずもがく私に、それ以上の力で抱きしめられる。けど、見たことのある制服と穏やかな睡蓮の香りに、はっと我に返った。
 この香りを私は知っている。この香りは――
「ハクさん?」
 見上げようとした私の頭を、強引な手が押さえ込んだ。けど、その手の力強さが答えのような気がした。
メンテ
雨粒の滴るサバイバルナイフ(4) ( No.72 )
   
日時: 2012/10/08 23:46
名前: 御厨 ID:onnDR1kg

「腕の怪我は深くないな。腕にナイフが掠ったってところか。ほかに怪我はないか?」
 ハクさんの静かな声で問いかけられて、うん、と私は頷く。そしてふたたび足元の藤堂を見た。藤堂はぐったりと倒れたまま、ピクリとも動かない。
「さっきの、ハクさんが?」
「ああ、術で彼の呼吸を止めた。死んではいない。ただ、気絶しただけだ」
 そうなんだ。とホッと安堵した。
 深く目を閉じる。ハクさんはとても暖かくて、穏やかな睡蓮の香りがした。
「ハクさん、そろそろ濡れちゃうから離れて」
 本当は名残惜しかったけど、懇願する。
 けど、彼はわずかに眉間に皺を寄せるだけだった。
「別にいい」
「けど……風邪ひいちゃうよ? 右腕は怪我してるし」
「風邪をひくかもしれないのは、お前だろ。僕にはいつも体を冷やすなとか言うくせに、自分まで体を冷やしてるじゃないか」
 その言葉はちょっと荒っぽかった。もしかして、怒っているのだろうか。
「もしかして私の体、冷たい?」
「それなりに」
 静かだけど、きっぱり言い切る彼にちょっと恥ずかしくなる。
 ああ、分かった。ハクさんの香りは、夏の湖に咲き誇る真っ白な睡蓮だ。透明感のある色合いと、慎ましくも穏やかな香りで通り過ぎる人たちを魅了させる。ハクさんにピッタリの花だ。
「ハクさん」
 彼の名を呼ぶと、彼はわずかに首を傾げた気がした。
「今日、たぶんこの一件で一日が潰れてしまうと思います。音楽祭も……事件続きだったから、たぶん失くなると思います。事件がひと段落つくのも、四日か五日か……そのころは、葵沢の山々が綺麗に色づく頃なんです。
 もし良ければ、ハクさんのお社に遊びに行ってもいいですか?」
 本当は、まだ話していたい。
 けど、今は藤堂の問題のほうが重要だ。それに、ハクさんがここ最近、私を避けていた理由も気になった。
「……それまで、頑張れるのか?」
 ハクさんの声がわずかに低くなった気がした。それでも拒絶された様子はない。
「頑張れます。頑張りたいんです。私、今まで逃げてばかりだったから……今度こそは、優や香菜たちを大切にしたいんです。お祭りを成功させるのは無理だったけど、守りたいんです」
「そうか」
 彼はひとつ頷くと、わずかに口元を緩めた。
「きっと上手くいく。ガンバレ」
「はい!」
 彼の言葉に背中を押されて、私は力強くうなずけた。




 それからは、てんやわんやの大騒ぎだった。
 藤堂――柴田が警察に捕まったということで、警察が駆けつけてきて、関係者全員が彼らに話をすることになった。私たち四人も全員呼ばれた。真中君や優は始終怒っていて、警察との問答が終わるなりいきなり怒られた。
 古い知人で、あまり良い人ではないから会わせられなかった。と言うと、そんなこと知るか! と至極もっともかつ理不尽なことを言われた。
青山先輩の容疑も無事に晴れた。けど、受験の推薦は結局貰えなかったらしく、夕方頃に先輩が泣いているのを見つけた。
 柴田について詳しいことはまだ分からない。本人が容疑を一部否認しているのと、事件の裏側があまりにも大きすぎたのがあって、警察も対処に困っているらしい。一通り片付くのは年明け――そのころには私も三年生になって、本格的に受験勉強を始めている頃だろう。
 ハクさんはあのあと、一度だけ私に手紙を送ってくれた。
 手紙の内容は意外と礼儀正しく、最近会えなかったことへのお詫びと、今度の土曜の待ち合わせ場所の約束についての待ち合わせ場所について書かれてあった。それが嬉しくて、何度も食い入るように読んでしまった。
 今度、お爺ちゃんに携帯電話を頼んでみよう。もし買えたら優とも小まめに連絡が取れるし――会えない日も、ハクさんとメール交換が出来るようになったらいい。もっと話したい。
 それから、嬉しいことがもう一つあった。あの日、音楽祭は無事に執り行われた。
 先生方と警察が、せっかく年に一度の音楽祭に水を差すのはまずい。と言われ、その日は伏せられたのだ。
 香菜と真中君はシンデレラと王子様を見事に演じきり、ラストでは観客を熱狂させた。優も二人に負けず劣らず、継母役を見事に演じ切り、観客を圧倒させた。似合いすぎてちょっと怖いなと感じてしまったのは、内緒である。
 私は上がりきっちゃって本番中に派手に転んで、お客さんから部員にまで笑われてしまった。「受けが狙えたよ。またやって」と部長からお言葉を貰えたけど、出来れば遠慮したい。
 舞台の終わりに、部長の引退宣言と香菜の部長の就任が正式に発表された。
 香菜が部長で、二年生の別の部員が副部長になった。別のクラスの男子で、とても明るい部のムードメーカーだ。ちなみに一年に彼女がいるらしい。

 そして五日が過ぎ、葵沢の山々がうっすらと色づき始めた十月の最初の土曜日。
 待ち合わせの三十分前にこげ茶色のパンプスを履いて、家を出た。



***

 「雨粒の滴るサバイバルナイフ」完結です!
 ミステリーは想像以上に疲れますね。ネーム無しで、勢いに任せて書いたので収集が大変でした(-_-;)

 最後の最後でハクさんが出てきたので、個人的に楽しかったです。紫苑ちゃんのお説教は次回に行います!
メンテ

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