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[1075] 天然糖
   
日時: 2014/07/11 23:56
名前: 独活 ID:FNxI5nIw

 寝ぼけ眼が視線上の未開封マドレーヌに照準を絞り、水晶体はそろそろ干からびそう。
 まばたきは合図よりもずっと後で。
 湿気に悶える指先が口元にそれを運ぶまでに、三分間ジャストあるので、カップラーメンが作れる!!
 しかしお湯を沸かすまでには至らないということこそが、そういうことなのである。

 旧題:仮縫い→ニッケルオデオン→ストロボ昨今

 題名型目次:

 〜2011 >>01-15
 2012 >>17-38
 2014〜 >>39-


* 〜2011

 玉留め >>01
 チョコレートファミリア >>02
 一行レスはサンダーストームの以下略。 >>03
 親友のきわみ >>04
 蛇輪に棘折れし薔薇の芳香を嗅ぐとなれば >>05
 獲心 >>06
 笑死体に座布団一枚を! >>07
 ニルギリ >>08
 あやや >>09
 上から読んでも下から読んでも色々な色 >>10
 迂回 >>11
 みんな可燃物 >>12
 幸せだから邪魔しないで >>13
 しゅじゅちゅ >>14
 えぐいなえぐかな >>15


*2012

 メリー・パルスの飢え乾いた夢 >>17
 音絞め >>18
 人型寝袋とプライスレス >>19
 傘を差す、都合よく雨が降る。 >>20
 踏切ハッピーエンジニアリング >>21
 一時から六時まで >>22
 花束と私 >>23
 にっちもさっちも >>24
 諸行無常の響きがいい >>25
 シロップ汁 >>26
 擬似ペンギン >>27
 日めくりカレンダー事件 >>28
 まかない料理の女神と守銭奴プライスレス >>29
 恋のキューピッドは神様だ! 確実に! >>32
 出直してこい >>34
 餅米的ウルチ >>35
 イソフラソイッシュ >>37
 まろやか他殺届 >>38


*2014

 毒針がストローになる >>40
 朝餉の日 >>41
 キス未遂罪 >>42


*ナントカシリーズ

 致死量 >>30 >>31 >>33 >>36

 角川がこの世を離れる時 (副題:角川)>>39


*詰め合わせ

 雨水絞り×4 >>43
 ゆるし飯・だめだめ涙は飲み干せない・ぶらざー、しすたー、あんどりとるぶらざー(共通因数)・カリスマ成人美談
メンテ

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朝餉の日 ( No.41 )
   
日時: 2014/05/14 03:06
名前: 川洲 ID:oPEGLVWY

 気がかりなことがあってさ……。
>>
 白い朝がやってきた。正確には電子レンジであたためた牛乳の表面のような、灰を舐めとったばかりの乳白色を帯びたそんな空が主役の日曜日。雲が渦を巻いているからではなくて、淡々と物語る白い空が優しく垂れている、そんな朝が舞い降りてきた。
 ぬるい手の温もりとけだるさを引きずった白。少しのはずみで浮いてしまうような虚無感。まどろみの時間が、今日はいつにも増して不気味に見えてしまう。この光景を漫画や小説に当てはめようというのならば、それは世界が終わる日の優しい猶予なのかもしれない。
 わたしはゆっくりとベッドから身を起こす。朝光がベランダからかすかに柔らかく差し込んでいる。寝ぼけ眼でもそれが朝日だとわかる。カーペットに積もった埃がわたしのスリッパの一歩で均衡を崩し、ゆるやかな降下作戦が始まった。夢旅行から戻ってきたわたしの体は不思議と軽く、何日ぶりの自室に曲がった空気が流れ込む。人が歩くことによって生じる軌道のぶれが、面白いくらい部屋を蹂躙するのだ。線香を置いたらとても美しいものを映してくれたに違いない。
 ベランダの戸を開いたことで、わたしは世界に降り注いだ結果を肌身で感じた。外はむなしい風の吹き溜まりでしかなかった。寝癖だらけの髪をよそよそしく撫でられる。マンションの一室から望めた、いつもの尖ったにんじん山がぽっきり折れていた。というか無かった。消え失せていた。無を広げていた。荒廃した世界というやつだ。綺麗にわたしの住処だけを切り取って、月の砂漠のような静寂を歌っている。わたしの部屋が別次元にトリップしたのか、はたまた世界がわたしの部屋を除いて終わってしまったのか。白い砂塵の上で笑顔をたたえている太陽がとても自由に見えた。
 世界は終わってしまったのだろうか。そもそも何があったのかさえわからない。でも手遅れを通り越してこの空間は終わろうとしている。隕石がメテオパラサイトを積んで落ちてきたのか、宇宙人がNASAの放った鳩を撃ち抜いたのか、地球マントル先生の風邪が悪化したのか。多分答えはもう出ない。わたしがあと少し早く起きていたらわかったかもしれないけれど。それでもわたし一人じゃどうにもならない問題だろう。きっと予兆を見たとしても、動こうだの思い上がることもない。
 でも、こうしてビル群も生臭い海のないまっさらな地平線はいつになく新鮮に思えてきて。感嘆のため息をついても誰も怒らなくて。それだけで心地よさを噛み締めてしまった。本当は孤独に押しつぶされてトンチンカンな発狂がしたい筈なのに。わたしは困らなければならない。わたしは涙を零さなくちゃいけない。ただ、その不安や恐怖がどこからも湧いてこないのです。むしろもう少しだけこのままでもいいんじゃないのと安堵さえ感じていた。寝起きの求める静かな風と体内時計を抹殺する程度のあたたかな日光を浴びることが、どんな時でも人間の求める至高であると論文一つ書けそうな気がした。もう誰かが評価することはないんだけども。
 このままずっと、わたしが何もしなかったらどうなるんだろう。多分人類最後の一人とかいう仰々しくも大雑把なあだ名を与えられているだろうこのわたしが、喉乾いてもお腹空いても、このまま、このまま、本当にこのまま。わたしがわたし自身が死ぬのを待つ為に全てを捨てて、何もしなかったら。死んだ。人類は終わったのだ。でもその真実は特別こんな状況において意味すら持たない。何故これを偉業へ言い換える必要がある? 偉業はただの積み重ねだ……。

 白身の肌を歩く 私は月人 あなたは駱駝の鞍
 丸い太陽がやっとくぼんで 私とあなた 星の砂へ

 月の砂漠で味噌汁は飲めない。喉を渇かしておまけに腹も抜き取ったわたしは、体を横たえる。これの延長線が最終的に置いていく結末を静かに悟る。知っている。二度も省みる必要を焼き捨てた。わたしの体は無供給を嫌がるものだから、ずっと拒みを積み重ねていけば、それこそ偉業のように評価されてわたしは首筋を縮める。耳が遠くなって、無音も拾えなくなって、ちょっとした喉奥の「キュウ」というドラゴンの唸りと共に絶たれるくらいのやわらかさ。軟弱な死。飢え乾いて死ぬ。ずっとそのような終わりを書いてきた。その終わりが好きな人達はわたしにえくぼを見せたが、それ以外はご飯も食べずにごちそうさまと言って、使ってもいない箸を使用後のように流しへ投げた。
 食べ飽きたものをそれでも口に押し込む勇気と、やるせない朝餉の儀式。朝ご飯はやがてわたしの命になる。スリッパが足下から飛び出して行った。埃がわたしの口を洗うみたいに風の道に乗っかった。
 ほこりがわたしの血肉になる。短い時間にねじこむラグのように、わざとらしく喉元を襲う。
 おいしくって、おいしゅうて!
 空気を口に含んだわたしは、とっさに身を0度から90度へ劇的回転を遂げた。味もわからない、そもそも食べ物扱いしていいものかな侵入者達を厚く迎え入れた。わたしは、そう、かき集めて、おいしいおいしいと歯並びを上下させた。咀嚼する。おいしい。ばかばかしゅうて、脳が呆れても肺は止まらない。頭がおかしくなったと言おうとしたらもうおかしいが完成してしまったような。でも震える鼓動が訴えたのは、あの白い砂漠の上を緑がはびこっていた時以上の、幸福な食卓なのであった。
「いただきます」
メンテ
キス未遂罪 ( No.42 )
   
日時: 2014/06/20 02:04
名前: 川洲 ID:XxnEtva2

 戦況は芳しくなかった。飛び交うチョークや文房具の小さなハサミの追っ手にわたしはくたびれていた。くたびれていたのもあるし、なにより骨が。はあ、と長いのか短いのかわからない間のため息を出して。パラパラと崩れゆく教室の床に、ぴったりと耳がくっつく。足をやられた。足も手も、駆動区域はピンポイントに抑えられた。
 白旗を持つことさえ、許してくれそうにないから。
 「ラヴソング」を歌って、煽る作業をはじめた。
「♪ ♪ ♪」
 なんてこたあない。ただの音のかき集めだ。大衆集めに苦労しっぱなしのアイドル達の歌だ。恋してることが大事、恋を果たさない自分が遠い、あなたの後ろ姿を見るだけでせいいっぱいなのに、背伸びしてつい強がっちゃう女の子の歌。まるでわたしだなって、重ねてみようとしたけど、そんなに艶やかな恋じゃないのは言うまでもない。言っちゃった。
 教卓の裏に隠れて固定された視線が泳ぐ。足音はもうすぐそこ。ローファーの重すぎない靴音が、耳のセンサーに引っかかるくらいすぐそこに。
「ラヴソングが聞こえる……」
 向こうは気丈な面持ちで。「耳障りなことを、人が嫌な動作をして」
 そんなに楽しいのか?
 わたしも向こうに失礼がないように、気丈な面を見せつけて。
「目の前で聴かせているからね。こんなにも素敵な歌、誰かに届けてあげたいの。お前がラヴソングのない世界にする前に、最後のラヴソングを歌った歌姫として。役に務める恋する高校生のままで死にたいぜ、わーははは」
 あからさまに不審に、眉を寄せて理解に苦しみもがいていた。わたしがそれだけ浮いているのが、地盤に座り込んでいる側の人間の仕草から受け取れる。おいおいたかが歌だぜ、戦争していないのに。冗談もなにもマジだよと、あの日合唱部での出来事が昨日のように思える。印刷してきた楽譜を落とし、胸倉を掴まれた時の。
 ちょっとなにをするの。それはラヴソングだな。ラヴソングってか、恋せよ乙女ソングですけど。異端だ。は。異端だ、お前は頭がどうかしている、周りより逸脱してしまった、つまみがいのある害虫だよ。ちょっと意味わかんないっすねえ。
「不愉快そうだね」
「不愉快だからな」
 相手が王子様だから? 王子様イズ偉い? 偉いからできるの中に、そういう理不尽もあっちゃったりするのか。ひでえチートを見たぜ。合唱部にいるこの国の王子様。成功した親の子供達が通う学校。わたしの親が持ってる大鉱脈より価値がある王子様。お金でこの世を買ってしまい、そしてわたしを処分するに至った理不尽な王子様!
 だから笑ってしまいたい。わたしの人生すごい恥ずかしい死に方でつらいから、笑い飛ばしてしまいたい。笑わないとマジでしゃれにならんのだわ。
「そんなに、お嫌い?」
 口元がにやけるのが、お嫌いなまでにわかってしまう。彼は押されると全く遠くの穴からボロが出るのだ。
「性別ひっくり返せばもろお前なこの歌が、そんなに聞きたくないものなの? たかが歌で、たかが歌で王子様泣いちゃう感じ?」
 かつりと一歩引かれた(ひどい)。別にどう足掻こうにも満身創痍に近いわたしの体は、口しか動かないものだから。顔の位置はそのままで、視線を上へと向ける。ここからじゃよく見えない。端っこがぼやけて、皮肉なのかなんなのか相手の顔色はもう伺えなくなってしまった。
「当たり前だろうが」次に彼はこんな正論を吐かれる。「そんな数分の歌にこの恋の重さがわかってたまるものか」

 風が金属に切り裂かれる音がした。
 鈍い音が頭蓋骨そのものに響く。チャイムみたいに、除夜の鐘みたいに。痛いのかとかいう次元から切り離されたような、レールが続かないトロッコに乗り込んでしまったような。ごーんごーんと唸る。わたしが言いたかった本音が、喉より下に沈もうとしている。期限が切れた。生の期限が無理矢理切れた。オーマイゴッド。
 瞳が突然諦めた。目を閉じようと重しを載せた。ばかやろうあきらめんなよ! と、わたしは痛覚を刺激して意識を引きずり出す。まだ手放すには惜しい。まだこの命にオチをつけて、死んでいない。
 わたしみたいだ、は、あれだ。お前を好いてるわたしを外から見たらの話だ。恋してる相手が王子様でも大事? 恋を果たすべきか迷う自分も好き? お前の後ろ姿を見るだけでせいいっぱいなのに、背伸びしてつい強がっちゃうわたしは歌えるのか?
 確かに「実はあいつよりお前の方が好きだった」なんて、とてもじゃないが本人の前では死んでも言えないだろうとは思っていたが。まさか本当に言えなくなるとは、少し落胆した。いつか卒業式の後、「あの時のわたしはもういないから話しちゃうわ。お前のこと好きだったかもしれない」と切り出そうとする心算外される? 浅はかなりとはこのことぞと当てはめてみる遊びをしてみて、心の中でうねり声を出した。
 それは本当にしゃれにならないのかもー。
 饒舌なこの口が開くのを待つより、手癖を思いっきり悪くして、鈍器を振り下ろすお前には比べものにならないくらい早く近づけて、証明すればよかったのだ。一秒で声ができるのが「好きです」なんて空気以上に軽いものだとしたら、一秒で口づけを交わした方が手っ取り早くて、この死以上に重たくなるとは思わないのかい。わたしの死を後悔させてやりたいとは思わなかったのかい。いや、むしろ浅はかなわたしを殺したことでこの困ったちゃんは元に戻るのかもしれない。より深い器をこさえて彼女いない歴=年齢くんへ退化し、またラヴソングを口ずさむ特技を磨くのではないか。
 腕が潰される前にお前を精神的に殺しておくべきだった。ぬかった。
「ならば」
 どうせわたしは……ね。「このわたしが、合唱部部長が好きで好きでたまらなくて、来たるべき機会まで恋心燻らせてた相手はだーれだ。そうとは知らずにわたしの人生に暗幕垂らしたひとはだーれだ」
 死に際の悪あがきと思われてるのだろう。人の声はしない。遠くでわたしの同志が幽体離脱・改する儀式が行われているだけだ。
 不意を突かれて中身がむき出しになる瞬間が見たかった。
「正解は、お前なのだした。でした」
「な」
「はいご臨終です、わたしの人生お疲れさまでし、ぐはー」
「かなみ」
「あいらっっっっっっっっぶぶぶゆうううう」
 わたしがお前に与えるのはちょっとした罰だ。お前にしか効かない特別な罰だ。
 でもこれでわたしは、望んでいた形は違えどお前を愛することができるのだ。逃げようとか涙をなすりつけるんじゃあないぞ。世界のあらゆる誰より一番好きなお前なんかに、この恋の重さがわかってたまるものか。

(だが……うっわ、これは恥ずかしい。やはりな。黒歴史になるのね)
 もう末代まで呪うしかねーのでした。
メンテ
雨水絞り×4 ( No.43 )
   
日時: 2014/07/11 23:51
名前: 独活 ID:FNxI5nIw

>ゆるし飯
「やや幸せ」近年。昨今。今日では。そして誰かの私生活どもを、歪に曲がった虫眼鏡で見れる時代から。「白飯にジャムパンをのっけたくなるくらいには、ジュージツしてるのですな。奥さん」「悪食やなあ、ああいやだ夢に降りてきてしまいそうな真っ赤なジャム」「ぬしほどではないよお、そのメロンパンやがて亀の魂が憑いて、この皿に卵産み落としてしまいそうだよお」「夕張クリームが入ってないからスカスカですよお。ちょうど奥さんみたく」
 互いのおかずをつついたところで天誅はくだらないのだから。


>だめだめ涙は飲み干せない
 大きい子供が駄々をこねているとして、例の小さめの大人もといおれがそいつを心の底から諭してやれるとは思わぬ。子供のすい臓には大きな空洞があって、地球を一周できるメジャーよりも縦長で横長なのだ。そこには涙袋より根源にある真水もとい真涙で満たされていて。ヒトが自分の子供という幼稚と初心の薄汚れた皮を突き破る時には腐ってしまうよくわからない体液だ。でも産業廃棄水としてデトックスのように処理されてから、余計な水を溜め込まなくなった分、ヒトはやっと地に足をつけられるという。きっとそれをでかくなってヒトは飲み切れなくて、最終的に捨てる決心がつく。そこが境界線のように浮き立っていることから、コドモとオトナが生まれたとおれの前世が言ってた。
 涙の受け皿になったおれの舌。視線の高さを合わせさせて、頬肉を絞り、その朝露の一粒にも満たぬ大きさのそれを舐め取ったとして。味は問わないとして、この人は泣き止んでくれるのだろうか。
「アウアウアウアウ」
「泣かない泣かない泣いても世界は貴様に傾かない」
「ウオウオウオウオ」
「だめだめみっともなく鼻水たらしてもだめみじめな姿に女神はすり寄らない」
「ならいっだいどなだがわだじをなぐざめる」
「鏡に映った自分にキスでもすりゃあいいのさ」
「百万回やったよウグウグウグ」
「エンもユカリもあるお宮を百往復しても心は豊かにならないのと同じように試行回数は精神に物申せても何も突き動かせない」
「ウワアン涙を流したならば声が枯れるまで世を嘆いても神様は青筋を立てないはずなのにぬぬ」
「世が好きな人の前じゃただの宗教に毒された人のつたない世迷言にしかならんよ」
「そうかそうかわたしはその程度の濁った心が求められるのだなこのまつ毛が守るべきはガラスが出てくる涙袋なのだ」
「ちがうちがうまた変な問題にしてるそのアプローチをどうにかしない限り貴様が欲する美しい煩悩はウニも同然」
「じゃあどうしたらこの涙は霧散してくれる栓をするにはどうしたらどうじだら」
「いや、だから言ってるじゃんじゃんか」
 貴様がしょうもなく涙をほとほと流す度におれがぺろりと舐め取ってくれようと! 血が透明度αに同調した液に乗るごみごと、末永くぺろぺろしてやろうと! なんべん! 言うたか!

「……」
「さすなれば涙の数だけ強くなろうとせずとも、おれは貴様に傾けられるぞ!」
「や、それならまた神にあやかった気に漬け込んでいたほうが、ましだ……」
 遠まわしに変態呼ばわりされる勇気が、今の頭には必要だった。


>ぶらざー、しすたー、あんどりとるぶらざー(共通因数)
 ミズホ姉が「んんんん調子がいかんせんコンディションに乗らないおかげで」と棒の素振りをやめるものだから、カナタ兄さんが慌てて彼女のツインテールにかけよった。祭までもう時間が無いというのに、長女も長男もこのような体たらくで、この日なんべんかも数えるのをやめた小休憩に、弟ヒロアキは情を抑えられない反抗期を利用して訴えるのだ。
「姉さんはどうかしてるや。肩の関節30度程度にした簡単なのすらおぼつかないのに、どうしてこんでぃしょんってたいそーな言葉使える度胸があるのさ。そもそも今回のこれ引き受けたの姉さんじゃない。肝心な主要人物が満足に踊れないってことあってもいいと? センターで踊るのがこんな足首震える大きな小鹿だなんて! 見るも恥、見られるも恥だ。申し訳が立たないどころかどんどん地中に沈んでいくだろうに。ああばかばかしいどころじゃあないね。兄さんもがつんと言ってやってくださいな、ねえ。兄さんが姉さんを性的な目でデレデレしたいシスコンなのは知ってるけれど、正直こんなのが兄だなんて今でも信じたくないけど、無責任な姉さんのどこが好きだというんだ。どこを性的に見れるというんだ。あそこか! あそこなのか! なんとか、いや別に言わんでいいです。てかさ、どうして好きならば姉さんを『こちら』へ向かわせてくれないの」
「兄さんはミズホちゃんのあらゆる責任を取れて幸せだお」
「わあい兄さんだいすき! 好きよ、兄さんのその盲目すぎるあたしへの補正」
「ニイサンハ、ミズホチャンヲズットアイラヴヴミズホチャンダカラネ」
「こいつらばかだったわ」
 こいつらに関わりたくねえと思ったとしても、時既に遅しとか後の祭りとかオチもおちおちとつけられやしない。だって、そんな彼らの血がさらに混じった弟ヒロアキはいったいぜんたい何者になればいいのだろう……こいつら以上のもっと醜いなにかになる前に、気持ちの整理くらいはつけておかなくては。
「あーあーもうしーらない。どうせ出ないし。またクラスメイトにからかわれるだけだし? どうにもならない話でしたねいつもながら! 先帰るよ」
「来いとも言ってないのになんで毎回来るのよ、不気味ったらありゃしない」
「あんまりしつこいと兄さん容赦しませんよ」
「弟のいたいけな訪問への感動がなにひとつ生まれなかっただと」
「一生懸命頑張ってるミズホちゃんの邪魔したいだけなら帰ってくれ」
「へいへい永遠にそうしてろや」
 河川敷独特の道場のような鍛錬を積む暑苦しさから、ふわり、意識を遠ざけた。


「ヒロくんいつになったら成仏するんだろうね〜」
 その瞬間を確実に約束することは不可能だろうな、とやんわり聞き流したりして。
 そう、例えば、二人をずっと監視するだけの亡き者になっちゃう、なんてさ、意外にいい線行ってるんだよね。


>カリスマ成人美談
路上で寝転がっているランドセル装備の子供を見つけた。あまりにも通行の迷惑になっていたので、私は適当に排水溝の激流ツアーへ案内してやった(大人の親切は寛大だ、格が違う)。翌日、再びその住宅街の一角を通ってみたら、寝転がっていた場所にわざとらしく赤いランドセルが置いてあって、開けたら開けたで、「きのうはおもしろかったヨ! 頭や体が水でたぷたぷですごい水ぶくれになったけど、スリルあってよかった! またあそぼ! 締めくくりのかしこでもありかしこの名もあるかしこより」。「敬語を使えクソロリカス」、私はそのランドセルを今度は反対側のドブ溝へ投げ捨てた。ランドセルは真っ赤な色を溶かしつつ、無限の可能性を秘めたドブに身をなじませ、そしてしばらく濁流ツアーを眺めることにしたのだった。
メンテ
弾ごとままに、平に ( No.44 )
   
日時: 2014/07/27 16:33
名前: 川洲 ID:xxajiT7I

/友も喜劇を

 猫箱に外気を吸わせたから。
 ひゅーーーーん
 ひゅーーーーーーん
 ぐっさーんぶしゅーーん
 「第N回狭間高校文化祭!3−5教室にて演劇『オワタ式学級殺戮大会』」。やっすいA4のささやき。ストーリーは学級を騒がせる連続生徒殺人事件に、おませな学級委員長と副委員長が挑むというもの。麗しい容姿を振り払い、委員長は、主人公は、倒れていく同級生の仇を取ろうと必死に犯人を突き止めていった。女優級の演技がなくとも、美しいだけで全てを許されるところがこの世界のいやみなところ。といったところだろうか。
 といっても、犯人の姿はばっちり見せた上で殺害のシーンを随時挟む。古畑任三郎みたいに、あらかじめ犯人を明かしておくという手法を採用しているらしかった。友人がどういった面持ちで出刃包丁を握り、人間のスーツを脱いだのか。殺人者になったのか。複雑でも、もしこの状況が私だったらやりかねないのだろうな、とは思える動機がそそる。それはフィクションという大いなる壁ごしから抱ける思いなのであって、決して殺人までしないとどうしようもない事態ではない。殺人していいのはたぶん、自分にだけだ。
 暗い教室に申し訳程度の豆電球が灯され、ここぞというばかりのクライマックスは近づく。おぞましい殺人業に身をすりへらしていた友人役が、追い詰められて錯乱した。
 しかし、しかし。
 ひゅーーーーーーん!
 ぶーーーん!
 劇から主人公役が一人歩きし、その役が慕っていた友人役に出刃包丁を見せつけるのにさほど時間はいらなかった。暗い教室の静寂がぎゅっと凝縮され、視線が集中する先にいた人物は、むくりと起き上がる。事を済ませた主人公は、観客が震え上がって解散する直前に手のひらを差し向けた。張りついた殺意に爪をたてて持ち上げる様を、誰もかれもが見ていて、あーた度肝はそんな風に抜くんじゃないよと当然思ったのだけれど、人殺しという人類から派生した突然変異種には、すぐには文句が言えない雰囲気がある。剥けた皮からのぞく妖艶な首筋は、豆電球に照らされ、死神のような不気味さを醸し出していた。
「『猫箱を開けたのは確かに私だが、二分の一の生死の他にこんな処理があったとは、正直思いもしなかった。思いもしなかったことに人は何も弁解をもたない……もちようがない。ならば、この私は誰に裁かれるべきか? 何も知らない人殺しをそれでも喜劇として迎え入れるか、悲劇のように片付けるか、これも二分の一だ』」
 ぜんぶにぶんのいちだ。
 委員長が、眼鏡を外した。


/航海しない会話

 指先がパピルスじゃない一ミリをめくる。古紙回収で育まれた三十パーセントの重み。新聞紙のゴシップな呟きとか、少年漫画の最終巻のページとか、昔読んだ児童図書の甘ったるい恋のシーンとかがぐちゃぐちゃにミキサーにかけられて、どろりとした灰色をすくいあげて、そして混ぜられた一ミリ。パピルスは今でものさばっていたり闊歩したりするのだろうか。ということで、僕が読んでいるのはSF小説。僕が時間を砕いて吸い込んでいるのは、たまたま本屋から引っ張り出した古い小説。前回ヘンデュル語を喋る主人公アジマノは、金平星(コンペイボシ)へ向けて有人衛星ロケットに搭乗し、航行している時、ただの恒星がくわえていた金属のチューブを引っ張ったところ、異空間へワープしてしまった。そこの異空間というのは、四次元越えて、まあどこだかわからないけど奇抜な3+N次元以上の空間へぶっ飛ばされた。なんとも言えない空間で描写もおろそかなのは、書いてる外国人は僕達と同じ次元の人で、行ったことないし作家として想像力が悲しかったからだろう。アームストロングなら、書けたんだろうな。モウリさんに聞いたら、手助けはしてくれるんだろうな。
 そして突然終わった。三百ページをめくりきった後に突然終わった。ビターエンドだったのです。苦虫をめいっぱい口に放って噛み砕いてアジマノは泣き焦がれた(すごく苦いに尽きたのだ)。異空間で出会った雌生命体テグメラの命と引き換えに彼は自分の星に帰ってこれた。彼女を融解させて、同時に彼女の脳機構を使って元の空間の座標を計算した。どろりと熔ける彼女にアジマノの喉は破けた。彼女と共に沢山宇宙を歩いた、そこには苦労と幸福と愛がある。SFではおざなりな愛の要素。世界を脅かす規模の難題はなかった。ただ行って迷って帰ってくるだけなのだから。そこでアジマノの奇妙な冒険記は終わっただけだ。「迷子になってはいけない場合はあり、瞬間もある。自分の方向音痴や余計な頬肉の吊り上がりで、誰かが犠牲になったという事実が、どれだけ末期のぼくのささくれをめくるのか。今でも今日が明日へ衣替えする一秒間に、ぼくの眼球でテグメラが踊るのだ……」、教訓といえばそんな悲壮感を漂わせる追憶。死者に虜になってしまったところで物語は半開きのドアノブを引っ張った。
 そう、世界としてはなにも進めていない冒険記の終着点。後追い自殺をしたのか、立ち直ったのか、あるいは彼はもぬけの殻にはならなかったが、どこか影を落とした人物として生きていくのだろうか。本当にただの入れ物になって、クズになってしまうのだろうか。そこは読者の想像の余地というやつで、アジマノのその後が語られていない空白が示すことは、つまりそういう訳なのだった。
 終わりは本当に終わりになった。でも話はそこまでで、アジマノ本人がその後どう生きて死んだかに作者のメスは入刀されず。しかし歯がゆく浮きだっているのもまた読者なんだと思いたい。本人の有様を僕はどうしても知りたかった。知りたいに違いない。凄惨な過去を経た生き物がどうなるのか、生の声を聞きたい。フィクションのはずなのにどうしても物分かりが悪くなってしまう。作者が僕達へ投げた題には、なんらかの答えというか筋があるのだろう。無かったとしても、作者に聞いて、納得すればいい。想像力もない。あやふやな結末を見た時しまったと思ったくらい、僕自身こういう終わり方が嫌いだったというのに。自分でその後主人公は自殺しましたと相槌を打っておけばいいのに、この時の僕は逆ギレしている困った読者だったのだ。
 僕の過去はそこまで鼻高に歌える武勇伝はなくて、手が見えない糸に引っ張られて、黒い受話器の冷たさを味わい、かさぶたをひっかくその指が、止まった。昔のSF作家は、死体を自分の作品で施した想像力のようにフェイクして、どこかの無重力空間で出したかった題材を煮詰めているのだろうか。本の巻末をめくるに、少なくとも今すぐ飛んでいける距離に彼はいなかった。婦人も夫より早く旅立ったみたいで、もしここで諦めて売り飛ばしていたら、また世界は違って見えたのかもしれない。
 踏み込んでよかったのか、踏み込まなかった時のことを考えても、それこそ想像の余地がない真っ白な思考しか浮かばなかったのだった。





 9602-8483-230…3482734...
「もしもし」
『☆×※▼○→■♪』
「あ、そういうのいいんで」
『コンニチハ』
「こんにちは、初めまして。僕です。三次元型宇宙人」
『マジか』
「大マジです」



「はい、はい。ええ。今日はあなたがたの興味深い話を聞けて、とても楽しかったです。……本当に! それはこちらとしても鼻が高い。是非今度遊びにいらしてください。僕でよければ案内します、というのは、到底こちらからの干渉は難しいのです。申し訳ないのですが、。ああ、そういえばあなたの名前聞いてませんでしたね。――はい、アジマノさんですね。素敵な名前だ」
 数日後、僕と彼は渋谷で待ち合わせをし、そして出会う約束を取り付けた。僕は彼に会うまでの猶予を、彼が欲しいというプラモデルを買い、駅前で昔話通りの青い触角を待ちわびている。口角が丸くつり上がるくらいには興奮しているつもり。
 彼は意外になんともなさそうだった。


/弾ごとままに、平に

 人生は戦場だって冷たい兄貴が言ってた。本屋さんの広告にも使われてるくらいには共感は大きいとのこと。いやだなあ、あたしあくびから弾丸は作れないわ。無理だわ。と思いつつ兄貴を恨めしく睨んだ、そしたら右手が爆発四散したのね。暴発事故がおてての中で完成したのね。あほかと思ったわ。ばかだと吐いたわ。でもおててただれたし右腕自体が駄目になってしまったの。あの頃のあたしはくそまき散らしながら倒れたのよ。今のこのご時世を顧みては小っ恥ずかしいのなんのその。だから義手をボンドでくっつけてもらったのね。
 そして相方を適当に組んだのね。
「ハルミネさんと一緒に行動なんていやよ」
「どうして。あたし足手まといにはなってないわ」
「あなた、声獣以外のわたし達にも殺意向けてるもの」
「そりゃいつ来るかわかんねえ化物に似てたらさあ。あんただってそうでしょう? 警戒は人一倍だものね。かわいい忠犬ちゃん」
「でもあなた」相方はトキワコというのね。「どうしていつもいつも爆発範囲にわたしを巻き込むの」
「手違いデース?」
「…………」
「信用してないの? かれこれ数年の付き合いじゃない。それに精度や場合によっても違ってくるから、目を瞑ってほしいわ」
「……昨日わたしの左腕をもみ消したのは、だれ?」
 さあ、誰だろうね。
「ああそうかよ!!!!!」
 殺意をきゅっと押し込めて、右手のひらに金属の重さがぶら下がる。弾丸を握って、あたしはトキワコに向かってぶん投げた。やけくそ投げのくせに精度はピカイチときた。トキワコは避けるどころか止まりもしなかった。弾丸が頭に吸い込まれ、ギョ、とぱくぱく血を吐いてあいつは倒れたのね。あいつの血は青かったのね。夕陽色に照らされてもあんまり綺麗に発色しなかったのね。なんて、醜い体液であんなにトキワコ自体はまともだったんだろう。毛細血管見ても青くはなかったのにね。あんたのチョーノーリョクにかかればこんな八つ当たりあしらえるだろ! あほかと思ったわ。ばかだと吐きたくなったけど今回持ちこたえたわ。そう。ずずん、と殺意が頭蓋骨に陥没する音を、どこか恍惚とした面持ちで聞いてるあたしは、なんだか自分で言うのもなんだけど、惚れたのだ。まるで自分じゃないみたいに、ひどく陶酔して……。
メンテ
/君は不出来なポーション ( No.45 )
   
日時: 2014/08/23 23:35
名前: 独活 ID:3E2QiwpM

/君は不出来なポーション

■内側から薄皮を突き破る(あの人が)
 ほんのひとつまみ、がいやに恐ろしく感じたものだ。砂糖小さじいっぱいだ。カラシレンコン真空パック仕立てではない。数ヶ月放置されたレトルトのナポリタンでもない。手つかずの干された割り箸とも違う。とにかくきみはほんのひとつまみに屈してしまった。誰にでも用意できる量に踊らされるきみ。法がほどよく抜かれたカプセル。赤と白のツートンカラー。錠剤は苦味とひどい幻覚を呼び起こす。苦い筈なのに気持ちよい、とは、なんだろうか。舌先の苦痛と共に悦を拾うとはどういう狂い方だろう。
 ずっとその苦味をしっかと飲み届け、涙と笑顔を程々にぼくに見せるきみってやつを、どう処分しなくちゃいけない。
「んんんちがう」ヘッドをマッドに振るきみは、思い出したかのようにガラス瓶に手を伸ばす。ためらいもなく手を突っ込み、じゃらりという感触にひどく安心したのか、あひえ、あはえと口角をつり上げた。月光だけが頼りなこの部屋で、きみの涎が銀よりもきらびやかに輝いた。「ストローク、なの? 独活はまだ。独りでも大丈夫はまだ。お前はまだ達してない。まだ、だめ。独活はまだ。お前はまだ大木の、と、ちう。ちうう」
 見た限り五粒飛んで十。きみがまたおかしくなるには十分な、十の粒を。ごくぶくぶくと噛んだと飲んだが入り交じった汚らしい食いようを。ぼくはきみの両手の指の数を足しても足りない気違いのパターンをまた。
 黙って見るしかなかったのだ。
 にがーい、にがぁいああおいしい。あーあおいしい。だめなのに。きみはハエが喜びそうな頭皮をかきむしって、ガラス瓶をお辞儀の角度より傾けた。肥大化した口に瓶の大きさはぴったりで、残りも全部すっぽりと入ってしまう。カプセルは正しい用法を守られずに、きみの胃袋に辿り着くまで、化学の連鎖を炸裂させる為の心の準備をはじめる。それを受け入れきったきみはむせた。代償に、喉が焼けるような刺激を貰うことになった。
 フケはどこまでだって飛んでいく。
「がふ、ご、ふ、へ……あはあ」
 大量の異物の訪問により、心の像がびっくりしているのが聞こえてくる。体を壊してしまう。きみの気が済むままに体が歪に分解されていく。骨が浮き出た不気味な腕が軋む音。
「大丈夫」震えた声なのはやっぱりきみに怖じ気づいてる証拠。「あ、大丈夫じゃないから、飲んでいるんだよね」地を確かに這う声で「本当に大丈夫って言われたかったらかったらかったらこれを捨てろ捨てちまえば、いのに、いいのに」「だって」「だてじゃないぼう」「きみを笑顔にしてくれるのはもう、それしかないだろう」
 目が大きく見開かれた。薬が効いてきたのだ。脳の二十分間の沈黙をも支配してしまった。
「……」
「そうだよ」
「こんな後悔も全部、先生の言うことを聞いていればよかったんだ。誰がとは言わ言えない言いたくないい」
「わたしはこれを飲んでる時とてーもしあわせ。しわが合う。しあわせだ。しあわせだよ。跳ね返す」
「潮時を決めたのだ」
「お前もそうだったんじゃな」
「ではないではないだにでじゃないそうこれはデジャヴ」
「わたし明日クローンになっちゃう」
「脳みそがねギシギシ軋むの、歯車みたいにおかしくなりそうなの、きっちりが怖いの。それであの人がね」
「薬は絶対薬はわたしを豊かにしたわたしは薬に生かされている」
「き、ぐ」
「それがだめだって見苦しいって反対側のわたしが言うのもな」
「あさましいところをお見せしたね」
「でもお互い様だ互いに互いのことは言えないのだ。言い合えないお互いの欠点がな。だってお前も」
「カレンダーがめくられる度にわたしは回帰する」
「ひたすら飲んで噛み砕いてそれでも満たされないのこれが生活だった」
「今日は、水曜日」
「異様な緑色の肌をしたきゃつらがねよだれをわたしに飛ばしたそう緑色緑色のよだれ綺麗だったヨ」
「あこあっこああっこここここ」
「悪夢はわたしにこうも言った、起こしてあげてっておかしいよね起きなきゃいけないのはわたしなのに」
「枕元に立ってわたしに乞うのだ。わたしがその頼みを正常にできるとはとてもとても」
「増えてしまうのですこのままじゃお前が」
「親子連れもああいう風になりたいっていう先輩もねみんな川に落ちた」
「でも意外なことに、わたしは最初から起きていたのでした。なぜか、なしてだか」
「わたしクローン説ありまくり」
「国に帰りたい」
「あの人に伝えたいやーーーーーややややや」
 薬の欠片を含んだ唾液が僕の口元にかかる。終始笑顔。薬に全てを支配されている心と体が、凡人である僕に対して浮かべるメッセージは笑顔だ。自分の脳が約一センチずつ縮んでしまったことも、内蔵にできたささくれから血が止まらないことも、全部わからないから、全部知らないから、知らなかったことにできるしされたから。都合よく薬に愛されようとしている。その愛を肌に、身に抱きとめている実感を、薬から貰っている。神様みたいなんだろうな。心の底から、下界の僕を馬鹿にできる笑顔が、あんなにも嬉しそうに。

「トルタは元気だろうか」
 あんなにも、待ちわびている。
「彼は」一呼吸置くくらいの心の準備は用意させてほしい。「きっと粒子になって、きみの鼻腔をくすぐっているんだ」
 トルタはここにいるのに、涙目で彼女を見つめているトルタはすぐそこなのに、もう僕が誰だっていいのか。
 僕の名の今日について話した後は、そこからはぴったし同じだ。形だけは。空の瓶を振る彼女にはもう心穏やか特効薬はもう無いのです。よだれと苦味に全て吸い込まれてしまったから。それでも彼女は薄皮つきの骨を器用に傾け、まだあると言いたげに教えてくれる。
「これはねあなた、知らないだろうけど。そうこの薬。笑わないでね。物事のはじっこ、一部始終がわかるの。このカプセルは真実を教えてくれる」
 嘘だ。
「わたしをあっちの世界へ連れ戻してくれるの」
 嘘だ。
「僕達はこちら側だ」
「ちがうね」
 は、気に食わない回答だったらしく、僕の鼻に彼女の拳がめり込む。痛みは、ある。わさび味の拳。
「その気持ちもなにもかも? もやもや、ねえもやもやしてるでしょう。わたしは知った。この薬が教えてくれた。きみがもやもやをしていたばっかりに、わたしに打ち明けないばっかりに、きみは損をした。まずみんながきみをけなす、次にきみのせいでわたしは死んだ。あっちでは、でも死ノットイコール消滅とか存在が消えるとかでわでわで、わ! ないのです。死は急速な成長なのだから、だから。死はただの速い課程。成長もただのイベント。問うまでもなーい。こここここからが大事大事、だじ。きみがわたしに肥料を撒いた。わたしは急に胸が大きくなったと思ったらね、はちきれてしもたーたはー。やっちまった。調子に乗るんじゃなかたないないだって心残り残りまくり、まだきみと仲直りしてないのでした。こおこおじゃあ、だあめだめだめだお互いにとってもここはすごくまずい!」
 まだこのままで時間稼ぎなんだよーーー!!! 有言実行もタイミングによるんだよーーーーー!!!
 彼女は大声で続ける。「きみは何かを履き違えて生きている! 思い出せ! 自分をありのままのフレームに映せ! 人のままの何者にもなれないきみそのものを、見定めろ! 計算高いフリをしてわたしを見下すのはおしまいにするんだ! ばか! ばあかばかばか! 意気地なし! 一から数え直せ!」
 きみはあえてずらしているのだから!
 本当のきみそのものを持て余しているのだから!
 しかししかし!
「しかし終着、だー。終わり! 終わりなのばめ。終わりが迎えに来てくれた」
 おもむろに立ち上がる彼女。迷いがなかった。というのは……そもそもきみの持ち味なのだった。なのだった……?
「終わり、とは」
 首の滑走路が喉よりも先に、亀裂を走らせる。地面がゴムみたいに一気に突起した。僕は頭を強く天井にぶつけ、その恩恵とも言える首の骨の痛々しい音を、聞かなかったことにした。続いて床に叩き付けられ、肋骨が小気味良く鳴った。肺で呼吸したい瞬間に壁が僕に向かって伸び、先の壁に躊躇すらなく飛ばした。
 彼女が立っているところは安全地帯のように動かない。
 彼女が見ている。
 トルタを見ている。
「終わりは終わりだ暗幕がやがて垂れるフィルムを再び巻き上げる状態になる照明が点く、そして、客が立ち上がる」
 誰の、作品!? 映画のタイトルは!?
「昭和甲乙年十月ナナナナナ日、ある男が男がくすりを、薬をばばばばば飲む。飲んだ。飲んだの。カプセルを、胃に隠すかのように、ひたすらひたすら押し込んだ。一部始終を見せるクスリ。リスクはお高くナンセンス。自己責任。そう、きみが。すなわち、あなたが」
 変動する部屋の中で、タンスの下敷きになってきみの話を聞くのもやっとな僕を見て。
「きみの気持ちを肌で感じることができた。全てをきみにお返ししよう」
 きみに幸あれと小指を立てた。

■頬はあえてつねらせず、ありのままに屈服するまで待つ(いつかは無保証)
 あー
 んあー
 間がどこまでも抜けていく。舌を引っ張られてもずっと伸びていくような。あーと言いながら手を動かす術を覚えた。赤と白を同時に噛み砕くのがいいのだ。いいーのだ。
「■■■■■■……■■」
 語りかける語りかける白い楕円形。話はとーらない。とーりゃしませーーん。歌みたいに聞こえるし、実際歌なのかもしれないが僕はしらん! しーりません。耳が切り落とされたみたいに響くから、じくじく燃えているから、ぜんっぜん聞こえないんでしゅー。
 ただ最後、
「訳がわからないとは思うけど……私はあなたの女よ」
 これだけがはっきり聞こえたのでつい。
「んんんちがう――」
メンテ

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