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[1107] Give me a break.
   
日時: 2014/02/14 20:24
名前: 子虎 ID:PJRpKkv.

気が向くままに、徐に。

(思いついた小説を書き止めて行きたいと思います。
宜しくお願い致します。)
メンテ

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蝶々のお話 ( No.1 )
   
日時: 2014/02/14 20:48
名前: 子虎 ID:PJRpKkv.

 昔々あるところに、小さな蝶々が居ましたとさ。
その蝶々は黒の羽に銀の飾りがついた見事な二対の羽を持ち、羽ばたく旅に白銀の粉が宙を舞うのです。
それはそれは見事な羽でした。その蝶々を一目見た人は言うのです。「ああ、こんなに綺麗なものを見たことがない!」と。

 その言葉を耳にする度に、蝶々は悲しくなります。
その羽が蝶々の価値を決めてしまっているような気がするからです(だって、この"羽"が私みたいな感じで、ねえ?)。
今日も賛辞の言葉を軽く微笑んで受け流しながら、蝶々は雪色の粉を煌かせて溜め息を吐きます。


 ある、晴れた日のことでした。
いつものように蝶々は羽を羽ばたかせて散歩をしていると、何処かから「もし。」という震えた声が聞こえました。
私に掛けられたものなのだろうか、ときょろきょろと辺りを見渡せば、小さな石の影からまた「もし。そこの。」と、声が聞こえます。
 蝶々は羽ばたくのを止めて、まるで水の中の魚のように優雅に石の近くへ着地しました。

「こんにちは。私を呼び止めたのはあなた?」

「そうです。蝶々さん、私です。」

 あまりに声がかぼそく、弱々しいものですから蝶々は少し心配になりました。

「あの、もしかして具合が悪いのですか?」

「いいえ、具合は大丈夫です。むしろ、良いんです。」

「そうですか。ですが、声がとても震えていますよ。」

「違うんです。いつもはこんなじゃないんです。」

 いつもは、と言いますと。
蝶々が問い掛けるとその声は少し押し黙って、それから

「あの、蝶々さん。あなたとお話がしたかったんです。」

 はて。目を丸くした蝶々に声は続けます。まずは、蝶々に対する賛美を。
あなたの羽は夜のようだ。だけど、決して冷たい夜じゃない。黒のビロードのような空に、銀を散りばめた特別な夜。そう、七夕の日の夜のように美しい。繊細で、柔らかくて。
蝶々さん、僕はあなたを一目見た時から恋焦がれていたんです。最初はあなたの姿を見るだけで良かった。青い空に、あなたが羽をひらひらさせて羽ばたくのを見ると、胸が一杯になるんです。
だけど、それだけじゃ足りなくなってしまった。銀の星が煌くのを目にすると、僕はどうしようもなくその羽に触れたくなってしまう。あなたの声が聞きたくなってしまう。あなたが他の人たちに賛美の声を掛けられると少し寂しそうに笑うのを、どこか悲しい気持ちで見ていました。

 小さく小さく吐き出される言葉に、蝶々はまた目を丸くします。
羽を褒められている時に、そんな風に寂しそうにした覚えがないからです。だけど、見ていたのです。
 彼は、知っていてくれたのです。それを思うと蝶々は少しだけ嬉しくなりました。

「それなら、」

 と、蝶々さんは優しく微笑みました。

「一緒に空を飛べば、私の羽をもっと近くで見れますよ。」

「いいえ、出来ません。」

「あら?どうして?」

 少し、沈黙が続きました。蝶々がまた少し不安を感じたところで、声は話しました。
声には、無理やり押し出したような悲痛な気持ちが込められていました。


「だって、僕はあなたのように美しくないから。」

 そう言って、石の端からひょっこりと顔を出したのは小さな小さな芋虫でした。

「僕には羽がありません。飛ぶことも出来ません。ああ、でもあなたの羽は何て綺麗なんだろう!あの、少しだけ、触っても良いですか?」

「ええ、勿論。勿論よ。」

 蝶々は芋虫が触りやすいようにそっと羽を芋虫の方に傾けました。
おずおずと短い手を伸ばし、芋虫は蝶々の羽に触れます。ふんわりと薄いそれは、触れただけで破けてしまいそうですぐに芋虫は手を離しました。
「あなたはまだ飛べないのねえ。」と、少し悲しそうな顔をした蝶々ですが、すぐに明るい顔になりました。

「だったら、私があなたの傍にいれば良いわ。」

 名案を思いついた、といった顔でした。
芋虫は目を真ん丸くし「そんなの悪いです。」とすぐに断りますが蝶々はすぐにそれを否定します。
自分の一瞬の寂しそうな顔を見抜いてくれた彼なのです。彼のためなら、お散歩の最中に少し寄り道をするだけのこと、何てことありません。「それにね、」と蝶々は続けます。

「私、あなたのこと美しくないなんて思ってないもの。」

 にっこりと笑って言った蝶々に、芋虫の胸は踊りました。
それから、二人は晴れた午後の日に毎日お話をすることにしたのです。暖かい春が始まった年のことでした。
メンテ

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