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[1078] 吐き出し場
   
日時: 2011/12/16 11:00
名前: 春姫 ID:e/5nCrcI




 溜めた小説を吐き出す場所。
 関連性のない、小説(?)みたいなものしかないです。
 それでも宜しい方は、へぼい小説ですが拝見いただけると、とても嬉しいです。



メンテ

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Re: 吐き出し場 ( No.1 )
   
日時: 2011/12/16 11:02
名前: 春姫 ID:e/5nCrcI

 ・ 愛に関する話 ・



1
 確かにそれは愛でした。
 稚拙で、それでいて雑多に入り混じったそれは、確かに愛でした。私にとって、その愛は、大事に大事に抱え込んで、仕舞い込んでしまいたいほど、綺麗なものでした。
 幼い子供の爪に、はみ出さんばかりに塗られたマニキュアのような、怪しい色気を放つそれは、美しかったんです。
 欲しくなりました。
 私の手中に収めて慈しみたい、本当にそう思ったんです。嘘偽りなく、私はその愛に恋をしたんです。



2
 色とりどりのマニキュアたちは、可愛い女の子みたい、愛しいと可愛がり、慈しんであげたくなっちゃう、ラブリーキュートってやつね。
 明るいピンクは、残酷で優しい女の子にぴったり、たくさんの男たちを手のひらで転がして、それを無自覚で捨てていく、でも誰も恨まない、そんな女の子にぴったり。
 暗いピンクは、慈悲深くて聖女みたいな女の子のために、マニキュアなんて知りもしない、そんな女の子の爪に塗ってあげるの、そしたらその子は女になるの。
 濃いピンクは、女がつける色、真っ赤に熟れた唇のような色は、全てを知り尽くした女が纏う色ね、吊られた男をそのままとって食べちゃうみたいな色。
 ピンクって色はまやかしみたいな色、本当はそんな色なんてないのに、人は勝手にピンクって可愛い名前を与えてしまった。
 だから女性とピンクは相性抜群なの。
 どんな女性にだって、着飾る楽しさを、彩る愉しさを、自分を愛する愉悦を知る権利はあってよ?



3
 平和を愛した貴方が、平和を志したまま地に眠る、それが幸せな事なのか、泣いてしまうほど悲しい事なのか、平和を愛せない私には分からなかった。
 誰もが笑い、誰もが愛を謳歌し、誰もが平和に生を営む事が出来る世界を、貴方は切望していた。
 私に夢を語る貴方は、私の目にはただの夢想者、馬鹿な夢に命を賭ける馬鹿な男でしかなかった。
 出会いは最悪、それからのたくさんの交流も最悪、何を取っても平和しかない貴方が、見放せないほど、手放せないほど愛しいと思いたくなかったのに。
 私は貴方の真っ直ぐな純真さが疎ましかった、妬ましかった、足りない私には、貴方は殺したいほど眩しかった。
 だって――――平和な世界に私はいらない。
 血に染まった手に、愛は握れない。

 墓に手向ける花はない、零す涙も、繕う言葉も、語る愛もない。
 貴方は一人、平和のために死す。
 私は一人、貴方のために死す――――それで、許して。

「きっと、落ちる場所は別ね、貴方は綺麗だったから、きっと、綺麗な場所にいるでしょうね」

 さっきの願いに意味はない、最後の最期まで、貴方は私を許していた、それが私には苦しい、死にたくなるほど苦しい。
 だから本来願うのなら、どうか私を許さないで、が相応しい。
 首筋に当たる冷たさに、噴出す鮮血の温かさに、貴方の墓を強く抱きしめて零す涙に――――どうか愛を。



4
 愛を知らないから愛を語れない、愛とはなんぞと、世迷言ばかり呟いては、愛とはこうぞと、弁を弄する、アホらしいことこの上ない。
 理想の愛ばかりが胸に居座り、真の愛ばかりが私の周りに飛び交う、決してそれは掴む事叶わず、私はどうとも言えやしない。
 出会った瞬間恋に落ちようと、長い時の末に愛にたどり着こうとも、私はそれらに共感する事は出来やしない。
 恋や愛だと私が喚こうと、それは恋や愛ではないと私は言うのだから、それに従うしか道はあるまい。
 愛とはなんぞ、愛とはこうぞ、愛とはどうぞと渡される物ではないのか、まっこと不思議な愛とやらを、誰か私にくれまいか。

「死に目に会いに来てくれるとは、お前も優しいやつぞの」
「そうかね、君の弱った姿ほど、観賞に値するものはなかろうて」
「誰もきやしないのは寂しい、お前みたいなやつでも嬉しいわ」
「愛は見つかったかい」
「いいや、最期まで見つからなかった」
「冥土の土産にくれてやろうか」
「はは、くれるならもろうてやろう、はよよこせ」

 重なる唇は血の味と塩の味。

「お前の泣き顔も観賞に値するぞ」
「はよう死んでくれ」
「ああ、じきに死ぬ」
「別れの言葉もくれてやろう、俺は大分前から君を愛してる」
「……おお、心臓が止まったぞ、お前は人殺しだな」

 良い殺し文句であった、最期まで、私は愛を区別する事叶わなかったが、それでも、お前に貰った愛は温かかったの。

「愛とはなんぞと君に問われても、愛とはこうぞと君に説かれても、愛をよこせと君に請われても、俺は君が愛を知るまで待っていたかった」

 さようなら、愛しい君、安らかに眠れ。
メンテ
Re: 吐き出し場 ( No.2 )
   
日時: 2011/12/16 11:05
名前: 春姫 ID:e/5nCrcI

 ・ 関係ないような話詰め合わせ ・


1
 寝息が聞こえるのです。朝の日差しの中、敷布団の上で丸まって眠るそこから、健やかな寝息が聞こえるのです。それは生きている証明のように、穏やかに、規則正しく、吸っては、吐いて、を繰り返しているのです。
 窓の外からは、車の慌しい音が聞こえるのです。鳥の鳴き声も、少し遠くから可愛らしく、聞こえるのです。太陽が昇ると共に、世界がゆっくりと目覚めていく気配に、思わず私は感嘆の息をもらしてしまうのです。
 眠気覚ましの紅茶は、優しい温かさで、体をゆっくりと巡っていき、私はまだ眠いと瞼が落ちるのを、必死に目を瞬くことで堪えるのです。この静かな喧騒の中、眠りに身を委ねれば、さぞ気持ちよい。
 私はどこまでも、一人、どこか夢現の最中のように、漂っていたい。孤独ではない、複数でもない、一人、分かち合う者も、語り合う者も、今は必要ないと思うのです。今はただ、この喧騒だけが在ればいい、そう、思うのです。
 いつしか夢は覚める、この喧騒は日が昇るに連れて、別の意味を持ち、この平和な時間は終わるだろう。けれどその一瞬まで、私はこの空間で、生きていたいと思うのです。
 例え今、この瞬間に世界が終るのなら、私は幸せ、と、呼んでも差し支えないだろう。いや、いっそ今終わらせて欲しい、などと祈ってしまう。それほどまでに高潔、それほどまでに純潔のこの空間は、もう閉じるのです。
 悲しむことはない、とあなたは言うやも知れない、でも今はまだ、この感傷に浸らせて欲しい。良いだろう、良いと言っておくれ、頼むよ、お願いだ、あと少し、もう少し、……いや、うんそうだな、もう、いいよ、もう眠るよ。
 おやすみ。――――お休み。



2
 涙が流れます。たくさん、たくさん、私の瞳からは涙が浮かんでは、流れていってしまいます。悲しい訳でも、苦しい訳でも、絶望している訳でもない、それでも涙が流れるのはどうしようもないんです。
 母は、私が生きているのが面倒くさい、ずっとここにいたい、停滞していたい、と、我侭を言うのに「いいのよ、ずっとここにいてもいいのよ」なんて、甘い言葉を吐くのです。それが堪らなく、私は怖いんです。
 否定されたくない、と、思っていたのに、いざ、肯定されてしまうと、不安で、どうしようもなくなってしまうんです。私は臆病で、卑怯で、どうしようもないから。
 どう生きたらいいのか、どう生きるべきか、考えても考えても、分からなくなってしまったんです。私は、ただ流れのままに、ただ流されるままに、生きる術しか知らないんです。
 腕をがむしゃらに振り回し、大声を張り上げ、泣きじゃくり、暴れ狂うしかできない、私はそれ以外の生き方を知らない、知らないんです、分からないんです、どうか、どうか、誰か私に道を示してください。
 このままでは、私はどこか大きな穴の下に、引きずり込まれるか、とても大きななにかに、押しつぶされてしまう。それは、怖い、とても、怖い、怖くて、怖すぎて、涙が止まらないんです。
 母よ、私を裁きたまへ。――――私を、許したまへ。



3
「残酷だ」「そうかな」「残酷だよ」「そうかもね」「何でそんなことをしたい」「したい訳はない」「じゃあ」一呼吸。一拍、置いて、また、一呼吸。「何故殺した」「死んでしまっただけ、殺した訳じゃない」「残酷だ」「そうかな」「残酷だよ」「そうかもね」「何であの人なんだ」「喋るから」「それが理由でいいじゃないか」問われた相手が目を見開く。「ああ、そうだね。ん、でも、やっぱり殺したい訳はない」「じゃあ」「……」「何で、死んでしまったんだろう」「直接の死因は、出血多量、だって」「そう」「綺麗、だった。多分、彼女以上に綺麗な、人はいない」「だったら」「……声が、聞きたい、声が、聞こえない、から、気がつくと、声も鼓動も、聞こえなくなる」顔を覆うが、端から視界は、暗いままである、と、男は思った。端から、自分の視界は暗いままだ、どこまでも暗いままだ、だからこそ、声が聞きたいと願ったのだ、と、男は今度は口に出した。静寂が続く、息遣いだけが、二人の人間がそこに在る、と証明する。「残酷だ」男が言った。「そうだね」女が言った。「残酷だよ」男は言った。「ここは地獄だ」女は言った。「……蜘蛛の糸が煩わしかったんだ。きっと、理由はそれだけさ」男は、泣いた。「それだけか」女は、泣いた。二人、人間が在っても、二人は、孤独であった。



4
 朝焼けの、光差す、あの瞬間が好きなんです。瞬間、あの太陽が昇る、あの時まで、空は黒くて、窓ガラスには、私の姿が映されているのに、ふと、意識を外すと、その瞬間に太陽が昇ってきて、空が白くなっているんです。黒から白に、オセロみたいに簡単に、くるっと、入れ替わってしまうのです。朝と夜が、ひっくり返る、あの、瞬間が私は堪らなく好きで、だから眠るのが惜しいんです。
 私の手前に座る男は、私を見ないで、窓の外ばかり見続けている。私はそんな男を気にせず、自分の好きな話を、自分の好きなだけ、早口で、捲くし立てては、休憩にと、お茶を一口啜っては、また話し出すを、何度も繰り返した。
 夜は、昼とはまるで違って、音がない、自分の衣擦れの音さえ大きくて、自分のする、行動の一つ一つが、すべて明瞭になってしまう、それは恐ろしいようで、とても、禁忌を犯しているようで楽しいんです。深夜は、息を殺す時間なのです、眠る者の息遣い、眠る物の息遣い、あれは、夜だけの物なんです。私はその空間も、堪らなく好きなんです。朝と夜の尊さを、私は何度体験しても、満足できない。
 男は私を見ない。窓の外の、行き交う通行人、車、雲、世界の動向ばかりを目で追いかけて、私なんて目もくれない。硬い椅子に、体の軋みを感じて身じろぐと、男は、私に初めて気づいたように、こちらを見た。
「僕は、昼が好きだな」――――それだけだった。
 あとはいつも通り、お茶を飲んだら、割り勘をして、店を出たら、駅までの道を二人で歩く、駅に着いたら、別々の電車に乗って、また今度会うときまで、さようなら。待ち合わせはいつも同じ、午後十二時の、お昼時である。



5
 まず知らない人間に会ったら尋ねる事は、名前、これに限る。最初の、やあやあ初めまして、出身地は(これは名前を聞くための前振りであって、聞くのも聞かれるのも、意味なんかない)そうかいそうかい、あそこはいい所だ、あそこはこんな苗字が多いんだ、違うのかい、じゃあ君は、ああ、僕は秋田太郎っていうんだけどね、そう、そんな字を書くんだけどね、君はどうだい、なんて書くんだい、おお、達筆だね、いいね、いい名前だ、そういえばあそこは何が有名だったかな……てなもんだ。え、出身地は大事じゃないかって、何てこと言うんだ、出身地が違う人間なんかと、そうそう知り合えるもんかね、そうだろう、こんなもんは、今ちょっと考えた、例、であって、みんながみんなこんなふうに会話するなんて、思わないで欲しい。
 出身地じゃなくて、住所なんかも、よく聞かれるけどね、他人の家の場所なんか聞いて、楽しいかね、いや、俺は楽しくない、ちっとも、楽しくないんだ。ああ、あそこね、あそこってどこだっけな、家の近くか、いや、知らないな、いや、うん、今度ね、今度立ち寄らせてもらうよ、あの店か、あの店の近くね、いや、よく行くよ、君もか、それはいい、今度一緒に行こう……なんて言うが、飯は家族か自分一人じゃないと嫌だね。真っ赤な他人と飯を食う、こんな気疲れすることは少ないんじゃないか。あら、それが好きなの、そうなの、私は嫌いよ、なんでって、不味いもの、嫌い嫌い、それよりこっちがいいわ、こっちにしましょ、なんて自分勝手なことを言っては、俺を引き摺り回されて、無頓着なんだ。
 食事の話は初対面ではしないから、今はいい、今はいいけど、食事は嫌だ。他人と食べると最悪だ。これだけは言わせて欲しい。で、なんだっけ、ああ、そうだ、知らない人間に会ったら、まずは名前、住所、家族構成、え、家族構成を聞いてどうするんだって、言うのかい、そうかい、君は聞かれないのかい、聞かれるだろ、そうだろう、そうだろう、兄弟がいたら兄弟のことを言うだろう、俺がそうだ、兄弟が多いと、もっといい、いっちゃん上だと、もっといい、やれ大変だろう、苦労したろう、と憐れんで貰える、こっちは、ええそうなんです、でも、家族のためですからと、お愛想笑いをすればいい、簡単だろう。……ああ、親がね、離婚して、片親って訳か、それもいいな、俺はどうでもいいがね、片親でも、親がいればいいもんだ、違ったのか、それでも、俺にはなんとも言えないな、明日には忘れるさ、でも、きっと他の奴は忘れないさ、思い出しては、それを口にしてくるだろうさ、それが嫌なら、言わないほうがいいさ、俺みたいな、人なんてどうでもいいって、奴だけに言っておきな。
 自慢じゃないが、俺は人のことを尋ねない、本当に、褒められたりする事じゃない、むしろ、恥とすら思えてしまう。人のことに無頓着な自分が、どうしようもない人間だと思えてならない。名前も、住所も、家族構成も、一度きりで覚えたためしがない、それで良いと思うだろう、でもな、他の人間は俺の、名前、住所、家族構成を、全部、覚えているんだ。俺は、それが――――堪らなく、羨ましいんだ。
 あら太郎ちゃん、お母さん元気、そう元気、これ食べなさいよ、美味しいわよ、あ、そうそう、太郎ちゃんこの前、あそこの喫茶でお茶してたでしょ、何飲んだの、まあ、珈琲なんて大人ね、太郎ちゃんは今何してるの、もう、いい年なんだから、お母さんを安心させてあげなさいね。……別にこんな人間ばっかりじゃない、分かってるさ、でもこんな人間ばっかりの、人生だった。こんな話は、楽しくない、全然、楽しくないんだよ、他人のどうこう、興味が沸かないんだ、なんでだろうね、ああ、君は片親だっけ、まだ覚えてるさ、君のあの、目を見ちまうと、忘れにくい、まったく、覚えるのも大変だ、覚えていないのも、嫌になる、楽しくない、ああ、楽しくない、本当に。
「聞いていいかい」好きにしろよ、俺ばっかり話すのも、あれだからな。「じゃあ、遠慮なく」なんだい、かしこまっちゃって、嫌だね、ほんと。「あんたの名前は」――――はは、ほんとに、俺って人間は、どうしようもないねえ
メンテ
Re: 吐き出し場 ( No.3 )
   
日時: 2011/12/16 11:08
名前: 春姫 ID:e/5nCrcI

・ 年上の彼女の感謝 ・


 年下のあの子は、いつも穏やかに笑っていた。

 人もまばらな水族館は、心を休めるのに都合が良かった。照明も落ち着いた、まるで深海のような場所は、居心地がいい。
 美容院に行く時間もなくて、伸ばし放題の髪をまとめる事もせず、銀色の手すりに体重をかけながら、ただ泳ぐ魚達を眺める。

 疲れていた。
 幼い時から、女手一つで私を育て上げた母は、すっかり見る影をなくした。
 誰かの手を借りなければ、生きていけないほど、弱りきった母は私の足かせだった。
 そんな母の面倒も疲れて、くたびれきった頃にあの子は現れた。

 まだまだ若い、幼いあの子は可愛らしかった。
 恋を、してみたいと思った。
 生まれて初めて、母の事を忘れられたような気がした。私は幸福だった。

 母は、段々と手の負えない状態に落ちていった。
 私は狂いそうになるのを抑えて、抑え切れなくて、笑うあの子を虐げた。
 手短に私の苛立ちをぶつける相手が、あの子しかいなかった。私には、あの子しかいなかった。

――――母が死んだ。

 ああ、これで、やっと自由になれる。
 なのに、感情は空虚だった。全てがどうでも良くなってしまった。
 死んでしまいたい、母のようになるくらいなら、今、死んでしまいたい。

 あの子の手を掴んで、暗い海に進む。
 水族館とはまるで違う、黒い海はまるで、私の胸のうちにある虚空のようだ。
 あの子は泣いていた。

 突き放されて沈む、私は安心してしまった。
 そうね、あなたは私みたいにならないほうがいい。
 私たちって、似たような模様の魚だったけど、種類が違ったのね、だから、ここでお別れするのは当然のこと。
 海の底は静かでしょうね。

「 あ り が と う 」

 もう、寂しくない。
メンテ
Re: 吐き出し場 ( No.4 )
   
日時: 2011/12/17 13:14
名前: 春姫 ID:lgNota6w


 優しさが酷く似合わない男だった。

 見た目が問題だった、真っ赤に染めたオールバックの髪、どうしてできたんだと、聞きたくなるような顔の無数の大小様々な傷に、見たものは顔を背けずにはいられない三白眼は、金色のカラーコンタクトをしている、これだけでも人はよってこないだろう。
 服装も問題だった、どこぞのヤクザみたいな、真っ白のスーツに、ゴツイお高そうな腕時計を手首に回して、指にはシルバーの指輪がひーふーみー、と、くれば、もう男の周りに人はいない。
 性格が一番の問題だった、自分は人の側にいてはいけない、なんて、男は本気で考えていた、強すぎる力と弱すぎる心のバランスが、上手く取れない可哀想な男だった。
 だから男は、誰にも知られず善行を働いた、まるでどこぞの妖精のようにひっそりと、ただまあ、自分にだけはばれてしまった、それは教えていないけど、きっと知った男は恥ずかしさで憤死してしまうだろう。

 優しさが酷く似合わない男の事を、自分は酷く気に入っていた。
 その優しさを自分だけが知っている事が好きだった、酷い女だと思ったが、男はこのままずっと孤独であって欲しいと思っていた。
 でも、男の人避けは、その優しさの前では無力だった。


「もう、やめるんだね、赤い髪も、金色の瞳も、白スーツも、腕時計も、シルバーの指輪も、何もかも全部」


 後には傷だけが残った。


「良かったね(嘘)、これで貴方は晴れて良い人になれた(大嘘)、きっと孤独じゃなくなるよ(本当)」


 不器用なその姿が好きだった、その姿がなくなっても好きだった、例え人に囲まれて、嬉しそうに大口開けて笑っていても好きだった、纏めれば死ぬほど好きだった。
 嘘をつかないその口が好きだった、無骨なその手が好きだった、その手が守る全てが愛しかった、自分は兎にも角にも男が好きだった。
 人に疎まれても、人に嫌われても、人からなにをされたって、男は優しかった、私はその匂わない優しさが――――大好きだった。

 男は、黒髪に黒目の至って普通の、カジュアルな服装を身に纏って、いかつい顔を朗らかに緩ませて笑った。


「はじめっから、孤独じゃねえよ」


 伸ばされる腕を、自分は決して避けた事は無かった、その腕は誰かを守りこそすれ、傷つける事は無いことを知っていた。


「俺にはお前がいただろ、お前がいたから、今俺がいるんだ、そうじゃなきゃ、こんな不毛な事何年も出来るわけねーだろ」

「……私、まだ側にいて良い……?」

「いろよ、なんで元に戻した途端いなくなろうとしてるんだよ」

「邪魔だと思ったから」


 男に人を近づけなかったのは、自分だった。
 見た目も服装も、全部私が指示しただけのこと、人を傷つけてしまうと泣く男に、ならせめて人が近づかないようにとしたまでに過ぎない。
 男の似合わない優しさに気づく人間を、こっそりと遠ざけていった、自分だけが良かったから、男の優しさに気づいたのは自分だけが良かった。
 でも、もう無駄だと思った、それなら、邪魔者は消えてしまおうと思った。


「知ってた、俺もそれで良いって思ってた、でもよ、もういいじゃねえか」

「何が」

「やっと、お前を抱きしめられそうなんだ」


 いつの間にか、力加減が上手くなったその腕に、私は捕らえられた。
 でも、いつまで経ったって、男は優しさが似合わなかった、私はそのギャップを愛している。




――――アンバランスダーリン
メンテ

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