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[1078] 吐き出し場
   
日時: 2011/12/16 11:00
名前: 春姫 ID:e/5nCrcI




 溜めた小説を吐き出す場所。
 関連性のない、小説(?)みたいなものしかないです。
 それでも宜しい方は、へぼい小説ですが拝見いただけると、とても嬉しいです。



メンテ

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Re: 吐き出し場 ( No.5 )
   
日時: 2012/02/02 08:14
名前: 春姫 ID:sSQUMmrA

 私の母は侍女でありながら、貴族の方の子を授かってしまいました。もちろん、世に出せるものではありませんでしたので、内密に子を落とそうとなさいましたが、母は断固としてそれを拒絶したそうです。
 私はどこぞとも知らぬ男との間に身ごもった子として、世に生れ落ちました。先ほどの話も、病に死に逝く母が絶え絶えに話したものでございます。
 その後の私は、光栄にも王家の侍女として仕える事になりました。そして、侍女の身でありながら、王様の寵愛も頂き、私はとても名誉に思っておりました。
 元から表情の起伏が無く、顔は良いが可愛げが無いと揶揄されていた私でありましたので、王様に見初められた時は夢のように思いました。
 私が城に仕えるようになってすぐに、一人の美しい女性が城にやってきました。王様はいたく女性を気に入っておられたのか、隠すように城の地下に閉じ込めてしまわれました。
 そして、私はその女性の身の回りの世話をするようご命令を頂きました。内密に、誰にも言ってはならぬとも言いつけを受けました。
 薄暗い地下へ、ランプの明かりを頼りに石階段を下っていきました。自身の足音が狭い階段を反響していきました。
 逸る鼓動を服の上から押さえつけて、二度ノックをすれば、甘い声で「どうぞお入り」と声がしました。扉を開けば、なんて美しい女性だろう、噂話など鼻で笑ってしまえるほどの美貌の女性がそこにいました。
 豪奢なドレスを身に纏い、豪華な天蓋付ベットに魅惑的な体を横たわらせて笑う女性は、まるで一枚の絵画のように神秘的でございました。
 王様が心奪われるのも仕方の無い事だったでしょう。

「名前は、可愛いメイドさん」
「メルディでございます」

 そうメルディね、と自分の名前が女性から零れるように言われた途端、体に火がつくように熱くなってまいりました。まるで裸に剥かれたよう、生娘のように逃げ出したくなりましたが、そこは侍女の誇り、私は無表情のまま一礼して見せました。
 今だから言いますが、私は彼女に嫉妬しておりました。王様の心を独り占めにし、私から奪い去った彼女に嫉妬をしました。
 けれど、一言、いえ、一目見た瞬間に私こそが彼女に心奪われていたのです。
 それでも私はただの侍女、王様の戯れの女、この思いは心の奥に仕舞いこもう。仕舞いこんだことすら、いつか忘れてしまうと、願っていました。

 城に火がつけられ、王様は既に息絶えていました。私に出来る事はただ彼女をここから逃がす事だけ、そう思えば体は命令などせずとも走り出しておりました。
 誰にも見られないよう、地下へ下りる階段に体を滑らせて、初めてこの階段を下った時の事を思い出しました。そう思えば少しは心が軽くなりました。
 いつものように二度ノックして扉を開ければ、変わらぬ美しさを保ち続ける彼女がいました、それだけでなんて幸福な事でしょう。彼女は焦る私の肩に手を当て、微笑を浮かべてくださいました。
 私は早く逃げるよう彼女に言いました、なのに彼女は一向に慌てる様子も無ければ、逃げ出す素振りすらありませんでした。私ばかりが焦っていました。
 そしてあろうことか、彼女は私を化粧台の前に座らせると、私に化粧を施し始めるではありませんか。そんな事をしている場合ではないと百も承知だというのに、何故、私は動く事も出来ず、ただ彼女にされるがままでした。
 彩られていく私は、まるで別人のようでした。背後では彼女が微笑んでいました。

 森の中を走る、生い茂る木々の所為でせっかくのドレスが台無しじゃない、靴も走りにくい事この上ない、化粧だって、流れる汗の所為でボロボロ、彼女が整えてくれた髪も無残な物だ。
 それなのになんでこんなに可笑しいの。笑いが止まらない!
 これからどこに行く、なにをする、そんなの今はどうでもいい、今はただ彼女のために笑い続けよう――――。
メンテ
Re: 吐き出し場 ( No.6 )
   
日時: 2012/03/22 01:08
名前: 春姫 ID:yRqgJdq6


 私には何もありません。
 家族がいます、友がいます、住む家があります、食べるものがあります、着るものがあります、嗜好品もあります、何もかもあります、揃っています、けれど私には何もありません。
 ただ私には心がありません、怒る事がありません、泣く事がありません、笑う事がありません、好みがありません、痛みがありません、愛がありません、故に私には何もありません。
 私の家族は偽りです。父と母は家の外では笑い合い愛し合っているというのに、扉を閉じれば詰り合いばかりです。私を産まなければ良かった、と、母は言いました。お前さえいなければ、と、父は言いました。それならば、私に家族はいないということになります。
 私の友は偽りです。表面上は友情に満ち、義理人情を振りまいているというのに、一度輪を外れれば誹謗中傷が飛び交う戦場です。うざい、キモイ、嫌い、死ね、友は見えない私に言いました。それならば、私に友はいないということになります。
 住む家、食べ物、衣服、本棚に納まる本は、どれ一つも私の金銭で手に入れたものではありません。全ては父の財産によって与えられているものなのです。それならば、これらは厳密に言えば私の所有物ではなく、私には何もないということになります。
 思春期独特の思想でしょう。きっと時間が私を癒してくれるでしょう、今はただ、そう願うしかありません。

「諒、ここにいましたか」
「あー……うん、僕はずっとここにいたよ、そして今は君といる」
「あなたはいつも嫌な事があるとここで座り込んで、私が来るまでてこでも動きませんね」
「そうかな、うん、そうだね。君が来てくれるって分かっているんだ、君は僕が好きだから、絶対に来てくれるって知ってるんだ」
「それは初耳です。私が諒を好きだ何て、私自身知らなかった事実です、驚きました」
「ふっ、嘘だよ。君が誰かを好きになるわけないだろう」
「酷い言葉ですね、私だって誰かを好きになることくらいあります」

 諒――――まこと。明白な事。偽りのない真実。
 剛毅直諒の四文字言葉からこの名前はつけられたと聞かされました。意味は意志が強く正直で誠実、と、いうことですが、私はこの名前は似つかわしくないと思っていました。
 それを誰に言った事もないのですが、心の中では常にその疑問を感じ続けていました。

「諒、帰りましょう」
「ああ、そうだね、帰ろう」

 手を握り合いました。
 何もない私でしたが、たった一つだけ、大切にしたいものがあります。目の前の人こそ、私がこの世で唯一大切にしたいと願う人間です。
 私にはない物を持ち、私には成し得ない事を成し、思いやりがあり、愛情がある、私はそんな彼を眩しく思っております。何もないと思っていた私に、何かあると思わせてくれる彼を大事にしたいと思っています。
 偽らず、飾らず、美しい人――――私には、相応しくない人です。


 今日も今日とて、父と母の暴言は激しさを増すばかりで、私は自室のベットの上で膝を抱えるばかりです。ああ、うるさいうるさい、と、音楽の音量を上げて耳を塞ぎます。
 早く離婚をすればいいのに、と、思いますが、そうすれば今度はどちらが私を引き取るかでもめるのでしょう。それが分かっているから、二人は離婚を選択せず、表向きは円満な夫婦の仮面をかぶり続けているのです。
 私が成人を向かえれば、晴れて二人は自由を得るのです。なので私は早く大人にならなければいけないのです、早く、早く、大きくなって、自由にしてあげないといけません。
 父にも母にも怒りはありません、悲しみもありません、嘆きもありません、ただ、疑問だけが残ります。どうして二人は結婚をし、私を産み、家族になったのでしょう。偽るくらいなら、初めから捨ててしまえばよかったのに、そう思ってしまうのです。
 鏡の中の私は笑ってもいません、泣いてもいません、怒ってもいません、ならば私はどんな顔をしているのでしょう。私は、何もありはしないのですか、本当に、何もないのですか。
 大音量の音楽の中、聞き取り辛い着信音に私は随分遅れて気づきました。表示されている名前に、私は音量を下げつつ通話ボタンを押しました。安らぐ声色に、肩の力を抜く自分がいました。
 電話口からは私を心配する声が聞こえてきました。
 私には何もないはずなのに、この沸き上がる感情は何でしょう、分かりません。

「諒、明日は持ち物検査がありますので、いつものように不要物を持ち込むのはいけませんよ」
「そうなのか、ありがとう、助かったよ」
「いいえ、ああ、ただ他の方には内緒にしてくださいね、示しがつきませんので」
「分かってる。君は本当に僕が好きだなあ」
「……そうですね」
「あれ、認めちゃうの、意外だな」
「私と仲良くしてくださったのはあなただけでしたので、どうしても甘くなってしまうのは仕方ありません」

 偽りのない言葉でした。

「君は何でも持っているんだね」
「それはあなたでしょう。家族とは仲が宜しいようですし、友人もたくさんいます、私にはないものばかりです」
「……そっか、そうだね、ははははははははっ!」
「? 諒、何かあったのですか、また嫌な事でもありましたか」
「ううん、違うんだ、違うよ、何もないのは僕だ! 君じゃない、君じゃないんだ、ないものばかりなのは、僕だ、僕なんだよ……はは」

 出会いはいつだったか、夕暮れの渡り廊下で彼を見つけました。窓の外では野球部の大きな声が聞こえてきます、彼はその声を聞いているのか、何かをみているのか微動だにしませんでした。
 私は彼に見覚えがありました。品行方正の生徒会長の噂はたびたび私の耳にも届いたからです。
 きちっと第一ボタンまで締められたシャツに、苦しそうなネクタイ、伸びた背筋に、地味な眼鏡は彼の人柄を正確に表していました。私はあの光景を一度も忘れたことはありません。感動、あの時私は確かに心動かしたのです。
 私の存在に気づいた彼は、一瞬間の抜けた表情を浮かべましたが、すぐに真剣な面持ちになりました。
 これを一目惚れというのかも知れません。私は彼とどうしても友達になりたくなりました。必死に接点を手に入れようと、初めて自分からアクションを起こしました。
 彼は存外穏やかな人間でした。普段の様子とはまったく違う印象に、今度は私が間の抜けた表情を浮かべました。

 私はずっと、自分には心がないのだ、と、思っていたかったのです。

「いつものところでお待ちしてます」

 携帯は切れました。
 両親の怒声も止んでいました。私の部屋は静かな音楽を残すだけになり、けれども耳の中には今だ声が残っていました。行かなければ、そう思って、身支度を始めました。
 いつもの場所に立つ彼は、あの夕暮れの時となんら変わらず壮麗でした。

「あなたを初めてここで見つけた時、私は思いました、ああ、悲しい事があったんだな、と」
「うん」
「いつも笑っているあなたは本当は偽りで、背中を丸めて途方もなく嘆いているあなたが本当なのだ、と、気づきました」
「うん」
「なにもない、そうおっしゃりましたね」
「うん」
「どうしてそう思ったのか、その理由をお聞きしても宜しいですか」

 彼にこそ“諒”という名が相応しい、私は常々そう思っています。意志が強く正直で誠実な人、素敵な人、彼に相応しい名前だ、と、私は思っています。

「僕には家族がいない、友がいない、心がない、自分がない、故に何もない」

 怒る事がありません、泣く事がありません、笑う事がありません、好みがありません、痛みがありません、愛がありません――――そうでなければ、本当に心が壊れてしまいそうでした。
 必要とされない自分が嫌でした。笑われる自分が嫌でした。笑っていないと生きていけない自分が嫌でした。偽らないと語れない自分が嫌でした。故に私は、心をなくしたくて堪りませんでした。
 時間が解決する事だ、と、自分を慰めるたびに、何時その時がくるのだ、と、叫びだしたくなりました。助けが欲しい、そう叫べない自分も、そう叫びたくなる自分も嫌になりました。
 何もありません。
 あってはいけません。

「僕には何もありはしない。全部偽りだ、全部偽物だ、君が羨ましいと思う僕なんてどこにもいやしない」
「諒」
「その名前もずっと嫌いだった。両親が与えたその名前がずっと嫌いだった! でも、そんなこと考えたくなかった、思いたくもなかった、だから捨てた! 今みたいに、君に叫ぶ、この今だって嫌で嫌で堪らない!」
「ああ、諒、泣かないでください」
「何もいらないんだ。家族も、友も、心さえもいらないんだよ。僕には、いらない」

 手を握って欲しかったんです。ただ、人の温かさに触れていたかっただけなんです。こんな風に、私と向き合ってくれる人が欲しかっただけなんです。
 神様、それは罪ですか。これは罪ですか。私は、ただ、愛して欲しかっただけなんです。

「諒、私がいます、あなたには私がいます。ああ、諒、可哀想な私の大切な諒」
「やめてくれ、君に同情されたかった訳じゃない」
「言ったでしょう、私はあなたに甘いんです。なぜなら、私と友達になってくれたのは、諒、あなたしかいないんです。本当に、私の人生で、私を必要にしてくれたのは、諒、あなただけなんです」
「君は、清廉だ。君を知れば、誰でも君を好きになる。……僕のように」
「違います、私はあなたが思うような人間じゃない」
「亮、君によく似合う名前だ。けがれなく明るい心を君は持っている。そうだ、僕は君が好きなんだ。ずっと、目を逸らして、気づかない振りをしていたけど、僕は君が好きなんだ」

 涙が流れました。ずっと堪えてきた涙が、やっと出口を見つけたように溢れ出しました。亮はそんな私を抱きしめてくれました。

「私もあなたが好きです、諒、あなたが好きなんです」
「ああ……亮、僕は堪えられないんだ。強くないんだ。弱いんだよ」
「私がいます。ずっと、あなたの側にいますから」
「うん、側にいて欲しい」

 私には何もありません。この感情に対する、言葉が何一つ思い浮かんでこないのです。どうしたら伝えられるかも分かりません。
 ただ、神が私に亮を使わせてくれたのだ、そう感謝するばかりです。




「君、生徒会長の清水亮だよね。僕は泉諒っていうんだ、よろしくね」
「……そうですか」
「ところで、いったい君はここで何をしているの?」
「特に、何かをしているということはありません。強いて言うなら、立っていました」
「なるほど、それなら今は暇って事だね。それなら僕とお喋りしようよ、こっちのほうが有意義な時間を過ごせると思うけど、どう?」
「私は構いませんが、あなたには退屈な時間になってしまいます、それで宜しいですか」
「とんでもない! 僕は君と話しをするだけで、きっと凄く楽しいと思うよ」

 私にはないものをあなたは持っていました。諒、私はあなたに救われたのですよ、お分かりですか。

「きっと、あなたは神が私に使わせてくれた天使なんでしょうね」

 その言葉はあなたには届きませんでしたが、私は本当にあなたを天使だと思ったのです。そして、それは今も変わりません。
 私の天使、あなたが私を清く正しい人間だというのなら、私はいくらでもそうなりましょう。
 だから、ずっと私のもとにいてください、ずっと――――。




諒 ⇔ 亮
メンテ
Re: 吐き出し場 ( No.7 )
   
日時: 2012/03/26 21:08
名前: 春姫 ID:Bh38AW.k

嫌いな黒




 学生と言われれば、私は黒をイメージする。

 私は学生が嫌いだ。
 何が嫌いかといえば、群れを作って馬鹿騒ぎをするところが嫌いだ。他人の迷惑を顧みずに、大声で喚き散らしたり、大笑いしたりするところも嫌いだ。やれ人の事を見ては、ひそひそと内緒話をするところがいっちゃん嫌いだ。
 更にいえば、学生服というのも私は嫌いだ。
 それを着て歩く学生を見るだけで、嫌悪感が体中を駆け巡る。横を通り過ぎるだけで、私の心は疲弊する、迷惑極まりない。
 短くしたスカートから伸びる足も、見えるパンツも、だらしがなくて仕様がない、一人一人に注意して反省させたくなってしまう。それがお洒落だと思っているのなら、その認識を改め直したほうが良い。夏場のシャツから透けて見えるブラジャーほど、私の心を掻き乱す物はないだろうに。
 もちろん女子制服だけじゃない、男子高生のあの、ズボンを下げる行為というのは、女子高生のスカートを上げる行為より理解し難い。意味が分からない、と、同時になんともやるせない気持ちを味合わされるのだ。引き摺る裾も腹が立つし、その過程で目に入る踵の潰れた上履きも私にはむかっ腹が立って仕方がない。丸見えのパンツを見るたびに、それが女子だろうと男子だろうと嫌悪感が込み上げてくる。

 駅の構内で電車を待つ学生の群れを見ると、私は咄嗟に視線を下に向ける。動悸が早くなり、体が緊張に硬直する。息を吸うのも吐くのも困難を極め、鞄を持つ手に力が篭るのだ。
 過剰反応だとは分かっていても、条件反射のように私の体は反応してしまう、私はそれをどうにかするのは当の昔に諦めてしまっている。
 彼らは無害だ、と、何度も心中で訴える。だというのに、笑い声が耳に入り込むたびに体が大げさに震えてしまう。羞恥で頬は赤く染まり、水分が目の奥から湧き出してしまう。こればかりはどうしようもない。
 テスト、彼氏、部活、ムカツク友達、嫌いな先生の話、様々な雑談が断片的に聞こえてくる。なんて平和、なんて無駄な人生だろう。
 私は鞄にしまっていた文庫本を取り出して、鞄のチャックをしっかりと閉じて、その上で本を開いた。こうすれば雑音は勝手に私の世界から消え去ってくれる。

 私が最も嫌悪している事は、他人のやる事成す事にいちいち興味関心を示して、自分の納得のいく答えが返ってくるまで追及の手を緩めない事だ。無論、そんな性質の悪い事をする人間なんて学生と頭の可笑しい奴くらいだろう。
 あれは私がまだ学生だった頃、昼休みの時の事だ。喧騒の中、私は一人席について読書をしていた。学校の図書室で借りてきたファンタジー小説だ。シリーズ物で、私はその作品を随分気に入っていた。大人になった今、触れる機会は随分少なくなってしまったが、今でも愛読書の一つだ。そんな至福の時に、一人の女生徒が割り込んできた。こういう事を平気でするのは、決まって普段から読書をしない人間だ。本を読む人間にしか、この苛立ちは分からないだろう。
 とにかく、その女生徒は私にこう尋ねた。「何の本読んでるの?」この質問は正直言って、嫌いだ。何の本、ファンタジー小説です、と、でも言えばいいのだろうか。それとも女性作家が書いた、子供向けの児童書です、と、でも言った方がいいだろうか。そんな質問は本が読み終わってからじゃダメだろうか、今、この時にどうしても聞かなくちゃいけないことだろうか、私はそうは思わない。けれど私は丁寧に答える「ローワンの物語っていうファンタジー小説だよ」しかしそれだけで話は終わってくれない。
 普段は絶対に話し掛けてこないくせに、どうしてこう、話し掛けて欲しくない時に限って構ってきたりするのか、私には理解できない。人の邪魔がそんなに楽しいのか、私の読む本がよっぽど面白そうなのか、後者ならいい、私が読み終わった後、是非図書室に借りに行って欲しい。
 タイトルの次は内容の説明を求められる、これもよく分からない。いや、これが一番よく分からない。内容なんて自分で読んで知ればいい、自分で読む権利を放棄して他人に請うのは間違っている。これが、私から読んで欲しいと願い出たことなら分かる、でも違う、内容を知りたいのは私のほうだ。
 そうこう問答を続けていると、次第に人が集まってくる。私は幼児に絵本を読み聞かせている保育士にでもなった気分だ。頼むから静かに本を読ませて欲しい、その後ならいくらでも雑談に付き合おう。
 でも、ああ、こんなのは序の口だ。真に嫌悪すべきなのは、あの男子生徒だ、私はあいつだけは絶対に許さない。名も知らない、あの男の事を、私は生涯決して忘れはしない。

 マナー違反かもしれないが、私は電車に乗っている間の時間を、よくゲームをして過ごしていた。イヤホンを差して音洩れはしないように心がけてはいたが、マナー違反だったら申し訳ない。私も社会常識のなっていない学生の一人だったのだ。
 私への怒りは後回しにして頂き、とりあえず話を聞いて欲しい。
 私は電車の座席に座ってゲームをしていた。P知っている方もいるかと思うが、私はPSP用ゲームのGOD EATERというゲームをプレイしていた。余談だが、私はこの手のゲームが大の苦手だ。とにかく、私はそのゲームに熱中していた。すると、向かいの席に座っていた男女の学生が私を指差していた。イヤホンを差していた所為で上手く会話は聞き取れなかったが、気にしても仕方ないので、意図的に意識しないように努めた。すると、驚く事に、いきなり男子生徒のほうが私の隣に座ってきたのだ。さりげなく、こっそり、なんてもんじゃなく、堂々と、無遠慮に、不躾に、おぞましい行為だ。私はあまりの衝撃に男子生徒を見た。女性生徒にも視線をやった。二人は始終にやにやと汚らしい笑みを浮かべていた。二度と会いたくはないが、次に会ったなら、私は心の中で死ねと呟いてしまうだろう。
 男子生徒は私のプレイしているゲームを確認したかったようだ。私は急いでゲームをスリープモードにして鞄にしまいこんだ。こんな男に自分の情報を少しだって分け与えたくなかった。気持ち悪かった。男はゲラゲラと笑いながら「俺このゲーム知ってるわ! やったことある!」と女子生徒に報告に行った。私はとにかく死にたくなって、消えたくなって、どうして自分がこんな目に会わなければいけないんだ、と、何度も自問自答を繰り返した。
 後にも先にも、こんな屈辱は味わったことがない。私の学生嫌いの半分はこの男女の所為といってもいいだろう。
 この後のことはよく覚えていない。よっぽど屈辱的だったんだろう、本当に記憶に残っていない。もういい、思い出したくない、忘れたいとは言わないが、早く自分の中で消化したいものだ。

 学生じゃなくなって、私は久しぶりに電車を利用した。運悪く、下校時間と被ってしまい、駅には学生が溢れていた。
 私はジャンプを愛読している。学生の頃からずっと読み続けている、きっと何年経っても好きだろう。そして、その日は月曜日だった。私は電車に乗る前に売店でジャンプを購入していた。案の定、学生の視線が突き刺さった。
 分かっている。これは私の被害妄想だ。きっと彼らは、そんな私の姿なんて少しも気にしていないんだろう。そう思ってジャンプを開くと、座席の前で立っていた女子生徒二人が、密やかな声で何か言っている様子が伝わってきた。私だ、咄嗟にそう思ってしまった。するともう、この車内全員が私を笑っているのだ、と、思ってしまった。
 それでも途中でしまうのも可笑しな話で、私は読み続けるしかない。楽しい時間が、一転して苦行となってしまった。
 なんで学生という奴は無遠慮の塊みたいな存在だ。全てが許されると思っている。あどけなさが免罪符になっている。学生というだけで許されると、勘違いも甚だしい。
 小心者の自分にも腹が立つが、人を平気笑える目の前の女子にも憤りを感じる。ガスの火で肌が炙られるような感覚が全身を襲う。私が何か罰を受けるような事をしたというのなら、どうか、この体に鞭を打ってください、その方がずっとマシだ。

 学生は黒だ。
 遠目から見ると、学生は黒の塊に見える。正確には群青や藍に近いのだが、私には黒に見える。髪の色も黒が多い所為だろう。
 私は学生が髪を染めるのもあまり好きじゃない。正直に言うなら、金や茶が好きじゃないだけで、私は黒が好きなだけなのだ。日本人は黒、学生は黒、周りの人間がいくら髪を染めようと、私は黒が好きなのだ。
 美容師にこう言われた事がある、皆さん金髪にしたりするのに、あなたは染めないんですか、と、愚問だ。周りが染めるからって、どうして私まで右にならえをしないといけないんだ。馬鹿馬鹿しい。
 と言っても、私は品行方正な学生じゃなかった。周りを批判していいほど、出来の良い人間じゃなかった。でも私は学生を嫌悪しているし、学生に好印象を抱くこともないだろう。全部を嫌うし、全部を憎んでいる。中学生の時から、きっと大人になって、年を取って、老婆になったって、私は学生を嫌悪する。
 まだまだ言い足りない。
 もっともっと嫌いな事がたくさんあるのだ。
 でも、何かを嫌うということは、とても疲れる、だから今日はここでおしまいだ。私は不満の塊だから、学生だけに憤っているわけにはいかないのだ。

 とにかく――――学生時代はすべからく消し去ってしまいたい。





黒が好き
メンテ
Re: 吐き出し場 ( No.8 )
   
日時: 2012/06/13 10:08
名前: 春姫 ID:QiNx0m4I


 夜の街灯を私はただ見ていた。ベランダの手摺の上に座って、後から後から押し出すように溢れてくる涙に逆らわず、ただしくしくと泣いていた。何が悲しいのか、明確な理由があったはずなのに、今はただ泣きたいから泣いていた。
 街明かりは涙のおかげで綺麗な光の塊と化していた。目を細めれば、光の線が空高く登り、まるで万華鏡のように多種多様な輝きを私に見せてくれた。綺麗だった。視力の低下を嘆いた私にとって、この景色は神様からの贈り物のように思えた。
 死にたいと思うことはあるけれど、そのたびに家族の泣き顔や、私の死体を思うと、私はいつも死ねない、いや死にたくないと思った。今もそうだ。私がこのマンションの九階から身を投げれば、下で犬の散歩をしている男性のささやかな日常は壊れるだろう。部屋の中、私がこうしてベランダで黄昏ていることも知らない家族は、私が飛び降りたことにも気が付かず、全て終わった後で、私の愚かさに悲しみと怒りを感じるだろう。そして私は昔に読んだ本の内容を思い出した。飛び降りは失敗(つまり即死できなかった場合)地獄の苦しみを味わうのだそうだ。ここは九階だが高さは足りるだろうか、死に損なったりしないだろうか、足は折れるだろうか、骨は飛び出すだろうか、体はひしゃげて恐ろしい姿になるだろうか、痛いだろうか、ここで泣いている方がマシだと思えるくらい痛いだろうか、そう思うと私は死にたくなかった。ここでこうして自分の愚かさに涙している方がマシだった。
 私は、何といえばいいのか分からない。私は自分のことを出来損ないだと思っている。私は産まれたその時から既にボダンをかけ間違っていたんじゃないか、そう思っている。でもそのたびに、自分を甘やかすなと父に言われたことを思い出す。甘やかしているのだろうか。分からない。何も分からない。分からなければ聞いて、と、私に言ったその人に聞いてやりたい。きっと誰も答えなんて知らないはずだ。ごめんなさい、と、謝罪した。その言葉は誰にも届かなかった。
 夜の街を走る車の明かりが、まるでパレードのようだった。ビュンビュンと過ぎ去っていく車の明かりが、本当にパレードのようで、私は思わず心が弾んだ。それでも涙は止まらなかった。掻きむしった左手が痛かった。自分で殴った頬が痛かった。六月でも夜中の外は肌寒かった。半袖から伸びる腕をさすった。――――神様、私は役立たずです。
 最初を間違えたらもうダメだ、父は私にそう言った。そうですか、お父さん、なら、私はもうダメですね。お父さん、私は、ダメですか。お父さん、私は間違いですか。私は、覚悟も何も無い、愚かで情けない、根性なしの、甘ったれでどうしようもないクズです。クズです、もう、頑張るなんて言えないよ。頑張るとか、頑張りたいとか、努力するとか、努力したいとか、言えないよ。苦しいよ。助けて欲しいよ。なんで、なんでこんなこともできないの私は、私は、なんで。なんで。なんで。なんで。なんで。
 綺麗事を嫌う人は多いけれど、綺麗事も言えなくなったら人間は終わりだと私は思っている。私はずっと綺麗事で自分を守っていた。他人に自分を否定されるのが嫌だから、綺麗で正しい言葉で自分を守っていた。自分の本心を言えば、きっと人は私を否定するだろう、だから私は綺麗事で自分を守った。「頑張るよ」「私が悪いから」「大丈夫」……もう無理だ。私は、好き勝手にしたい。でも、それは許さない。それは正しくない。でも、でも、私は……私の心は、無視していいんですか。苦しさを、悲しさを、辛さを、全て無視して、無理して、頑張って、その先に、私は……私は。
 とどのつまり、私は謝ることしかできない。一番卑怯で、一番愚かなことしかできない。分かってる! 分かってる! 分かってない。何も、分かってない。
 出来ない、否定される。
 頑張れない、否定される。
 もう嫌だ、否定される。
 逃げたい、否定される。
 助けて、否定される。
 自分の好きなことを見つけなさい――――私は家族がそこで笑ってくれるだけで幸福です。嘘です。家族がそこで笑って私を受け入れてくれれば、それだけで、頑張れたのに。
 たった一言「辛かったね。頑張ったね」それだけで、良かったのに、本当に?
 夜の街灯を私はただ見ていた。涙と鼻水をジーンズにこすりつけて、出来るだけ音を立てないように泣いた。私はただ構って欲しいだけだったけれど、誰も構ってはくれやしなかった。大人になるのって、難しいね。生きるって難しいね。死ぬって難しいね。仕事って難しいね。なんなんだろうね。私が異常なだけなんだろうか。私が出来損ないなだけなんだろうか。でも、もし、私と同じ悩みを持つ人がいたのなら、私はあなたにこう言いたい。

 私はあなたが好きです。
 私はあなたを許します。
 あなたは充分頑張りました。辛くても、悲しくても、出来なくても、笑われても、あなたが頑張ったことを私だけは知っています。
 だからあなたも私にそう言ってくれませんか。
 好きだって、許すって、頑張ったって、言ってください。








(間違っている私の、間違っている悩み)
メンテ
Re: 吐き出し場 ( No.9 )
   
日時: 2012/06/28 20:29
名前: 春姫 ID:3LMH0xxY


 好きよ、好き、好き好き好きよ、大好きよ、どれくらい好きか分からなくなってしまうほど好きなのよ、好き、好き、好き過ぎてダメになっちゃうほど好きなのよ、ほんとに好きよ、大好きよ、好き好き大好き、死んじゃいたいほど好きなのよ。
 目が好きよ、その目が好きよ、その目を見るだけで下半身が熱って、抉り取って舐め回したいほど好きよ、歯で磨り潰して感触を味わいたいほど好きよ、でも、ダメ、私を映してちょうだい、その、目で、好きなだけ私を映してちょうだいよ。
 口が好きよ、その口が好きよ、その口に口付けて、私の下で隅の隅まで味わい尽くしたいの、綺麗な歯並びだからきっと舌でなぞれば気持ちいいんでしょうね、ああん耐えられないの、早く口付けて、好きなように貪りたいのいいでしょう。
 指が好きよ、その指が好きよ、その骨ばった指の節に舌を這わせたいの、ゆっくりと舐りたいの、爪の間に舌を入れてカスを舐めとりたいの、柔い爪を歯みたいの、剥いであげたいのよ。
 好きよ、本当に、本気で、本望なの。
 好きなの、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好きぃ、好き、好き、好き、好き、好きなのぉ、好き、好き好き好き好き好き好き好き好き、好きって言葉ですごいわ、私の感情全部を表してくれる。
 あなたから流れる温かいそれも好きよ。吸って、舐めて、飲んで、もっと、もっともっともっと欲しくなっちゃうあはぁ。
 胸に手を突っ込んで、まだ脈打つそれを取り出すと、あなたはピクピクと小刻みに震えて、可愛い、可愛い、濁った目も、だらしのない口も、冷えた手も可愛くて大好きよ、だからひとつになりたいのよぉ。

 あなたが好き。
 だから、いただきます、全てを、ご馳走を、いただきます、食んで、食んで、食んで、はみ、はみ、はみ。
メンテ

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