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[7] 第四回短編コンテスト【結果発表】
日時: 2011/11/15 00:25
名前: 管理者 ID:WwOMwq16

今月の管理者:雨野

 こちらは短編コンテスト、作品投稿スレッドです。短編コンテストに参加される方はこちらに作品をご投稿ください。
 まず執筆・投稿される前に、規約・企画説明スレッドと、以下の注意書きをお読みください。
 今月はイベント月ですので、通常月とテーマが異なります。ご注意ください。

・テーマ
 三題「海」「後悔」「鈴」

 今回のテーマは三題です。以上のみっつのお題に沿う作品を提出してください。お題が増えたという意味で制約が多くなったという面はありますが、具体的な想像がしやすくなる面もあると信じて、皆さんの力作をお待ちしています!

――――――以下提出作品リスト(敬称略)――――――
>>01 Raise:『いつかまた東京で、なんて言わないように』 19枚
>>02 春姫:『闇の魚』 14枚
>>03 芹:『双子の人魚姫』 10枚
>>04 ピクシー:『味噌汁と亀』 14枚
>>05 オムさん:『文京区図書館にある町田康のCDは……』 10枚

投票結果 >>9
投票詳細 >>10-
メンテ

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Re: 第四回短編コンテスト【投票期間】 ( No.12 )
日時: 2011/12/10 23:22
名前: Raise(投票) ID:MSkTzSbs

□投票
〇ベスト一位/オムさん「文京区図書館にある町田康のCDは……」
 話の中身としてはかなり適当なのに、形式がしたたか。そのしたたかさを厭な笑いを引き起こす文体で覆い隠そうとする気概にはどうなんだろうなあと首を傾げずにはいられないけれど、言葉のスピードをコントロールする手腕は好きでした。あと、冒頭と終わり方がよくよく考えるとすごく中の話の形式と響きあっている。物事を中身と形式で二分する言い方はどうなんだろうと思いつつもあえてしますが、形式においてかなり優れたものを持った小説だったと思います。残るは中身か。

〇ベスト二位/春姫さん「闇の魚」
 魚というモチーフを水族館→海とうまく循環させて使えていること、「闇の」にかかるヒロインの不明瞭さを順守出来ていることがかなり好印象でした。キャラクターの造形には問題があるような気はしますし、手っ取り早く「愛」という言葉で何もかも終わらせようとするってどうなの、という気はしないでもないですが、自分の作った場に忠実に従えているあたりは好きです。

〇ベスト三位/芹さん「双子の人魚姫」
〇ベスト四位/ピクシーさん「味噌汁と亀」
 どちらかという減点法な順位決定でした。四位のほうがひたすらに雰囲気に終始し、それによってつくられる場も自ら壊してしまっているようなきらいがあるのが決め手となり、この順位に。とはいえどれもある程度以上の水準を保った作品であったということは、ここに追記しておきたいです。今回の短編コンテスト、数は少ないながら面白い作品が揃っていたように思います。

□レビュー
〇春姫さん「闇の魚」
 彰子さんと初めて言葉を交わす際の「私」の発言が狙ったにせよデュフフwのコピペを思い起こさせて一人でデュフ笑いをしていました。そんなことはどうでもいいや。水族館での出会いが海での別れに終わる、というちょっと円環的な物語の場所取りはグッドだったと思います。闇の魚、というモチーフと彰子さんの微妙に具体的な姿の見えない様がうまく重なっていたのは巧み〇話としてもある程度の背骨はしっかりとあり、最終的に余韻を残した引き際なのも〇。全体に人々の動作がうまく挿入されているために、中だるみがなくなっているのが良かったです。彰子さんとの関係の深化に具体的なエピソードを持ちだせていないのは残念かな。書かないということと書くものがないということは別で、馴れ初めの物語を一つか二つ入れておけば「やっぱり彰子さんに会いたい」という「私」の追想に深みを加えられたと思います。この過去は苦いものだけじゃなくて、甘くもあるはずだから。あと、彰子さんが三十過ぎ程度でもう完全に彼氏できないよって諦めてたり、二十直前なのに長男の服を借りなきゃいけないってどうなんだろう。読み手にとってのリアルにも左右される気もしますが。おばちゃんと若者との恋、そしてその破局というテーマではサガンの「ブラームスがお好き」が個人的には好きです。手に入りやすし、もしよろしければ(同じテーマなら同作者の「優しい関係」のほうがよほど優れているんですが、なぜか絶版)。

〇芹さん「双子の人魚姫」
 拙く優しい文体は童話の雰囲気をよく醸し出していたように思います。結局みんながハッピーになる「人魚姫」なのですが、姉が妹を赦すプロセスがもう少し書けていたらよかったかな、と思う反面、書き過ぎだと童話としては重くなってしまうよなあ、というジレンマ。ロマンティックな情景が多く、童話を模しているとはいえ甘美な空気に浸れて満足でした。一番好きなのは音楽に呼ばれて船を見に行く場面です。習作という印象が色濃いです。書かないことで美点の生まれる文体と内容なだけに、小説として何らかの感想を持つことはちょっと難しいかも。みんな幸せって、いいよね、とは思いました。ディズニーの映画でも参考にすればよいかもしれないですね。

〇ピクシーさん「味噌汁と亀」
 この女マジで意味がわかんねえな、と思いました。割と悪い意味で。同じように「あえて」見せないという手法を用いた最も有名な作家にヘミングウェイがいますが、彼の場合は既に書いた文章をあとから消すことで広がりを作っているわけで、初めから書いていないもの、初めからないものを「ないです!」と言い切ったところでそこには何ら広がりが生まれない。理解不能なだけです。冒頭の料理(現在)と居酒屋の情景(過去)がパラグラフを切られずに連続するシーンは映画的なシークエンスを感じさせて上手いなあ、と思ったのですが、どうにも話の冒頭に強引に末端を加えて終わらせたような印象を拭えない。ルームシェアの相手が用意した晩御飯を食べないというだけで泣き崩れる男に「味噌汁の分だけ、開けておいたから」という女はもはや意味が解らないを通り越して怖いです。人間は性格から物語を作るのではなくて、物語から性格を作る。ハリウッドのシナリオがエンディングから作られているというのは有名な話ですが、人間の性格(強引に雰囲気と言い換えてもよいでしょう)だけで物語を作るというのはかなり困難な話です。その雰囲気だけで上滑りしてしまった。短編とはいえ、やはり物語がしっかりと終わり切っていないのは痛いです。この形式で終わらせるにはトムラさんに得体の知れなさを付与する必要があったんだけれど、肝心のミステリアスな部分がサークルと過去しかない。ルームメイトとして相手の生活を(ある程度)知っているということは巨大な知識であって、だからトムラさんに「あえて訊きたい」という主人公の感情にリアリティがないのです。同じノリなんだけど、この点に関しては春姫さん「闇の魚」が上。エピソード数の少なさもかなり気になります。

〇オムさん「文京区図書館にある町田康のCDは……」
 「笑えて、悲しい」というケースには二つあって、ある出来事が喜劇的・悲劇的な側面を共に供えている場合、あるいは強烈な笑いと悲しさが一つの物語のなかに(別々の出来事で)同居している場合があります。「とてもとても悲しい」この物語における「笑い」とはどうしようもなくだらついた文体で、結局のところこの話の楽しみはは文体の厭らしい笑いをどれ程堪能出来るかに帰結されるのでしょう。それは冒頭の町田康のエピソードとクロスオーバーする。物語そのものとしては破綻してしまっているが故に、また冒頭が完全に無関係であるが故に、意図せずこの小説は完成される。結局のところ物語としては終結していなから何の意味もなく、読み手は物語の終結を聞くことは出来ない。どう考えても適当に付け加えたんだろう冒頭と終盤なのですが、そう考えると結構巧みな罠だな、と思いました。言葉のスピードの奇妙なもたつきが面白い。たとえば「その時ボートが激しくぐらついた。と思ったのだが、ぐらつくどころか、ボートは大きく横に傾き、そのまま転覆してしまったのだった。」は「思ったのだが」が明らかに不要であるにもかかわらず、すっとぼけた効果を与えることに成功している。「言葉で表し得るものだが、私にはそれでもまだ何か足りず、本当には言い表すことができない」というコンセプトが前提にある。海の印象には決して私達には達成し得なくて、それが記憶の混濁、海の波と美しく同調する。言葉のコンポジションの力は優れているだけに、中盤の幻想譚はもうちょっと何とかならんかったの、とは思います。即興で作ったからこそのまとまりなのでしょうが、それだけに中盤の陳腐さは何とも言えず残念か。ただ、全体的に言葉そのものへの高く、またどうしようもない意識は感じたし、文体そのものに味わいのある小説は今回はこれだけだったと思います。楽しかったです。

〇自作「いつかまた、東京でなんて言わないように」
 二十枚にまだ苦戦しています。三段落のうち一番初めの「街のあかり」はアキ・カウリスマキ敗者三部作の第三作からタイトルいただきました。傑作映画。総合的に面白いのは「過去にない男」なのだけれど、やっていることとしては「街のあかり」も凄く面白いので、映画好きだったり時間のある人はぜひ見てみてください(物語の中でいかに現在を取り扱うかということの勉強にもなります)。三番目の話の手紙がいかにもひどい文章なのでちょっと何とかしたかったのですが時間の都合上間に合わなかった。残念。光の描写ばっかりするよね、と言われたので今回メインにしたのは暗闇の描写でした、が、練度が低いなあ、と実感。あと、スパゲッティ屋での対話のシーンが話し手と花との言葉のやりとりに終始していていかにも画面がつまらないのは問題だなと思いました。その場の特性を利用できれば上手くいけばその場所取りをする必要性が、少なくともその場の意味が生まれる。これじゃ別に公園でも変わらないじゃん、とちょっと残念になりました。あと、一人称がないのはうるさいからです。一人称に文体や物語が引っ張られてしまうのが嫌なので。一人称が省略できるのが日本語の美点でもあるので。ただ、一人称の豊かさも日本語は有しているので、今後名乗りをもって物語を構成していくということも出来たらいいなと思います。無計画というより、その辺は自分の記憶を頼りに場を再構成出来るかどうか、結局は感覚の問題。話の中身に関してですが、「東京」は一期一会の場ぐらいで捉えてくれたらいいかな、と思います。出会うことそのものが愛おしいのは、別れるという行為の悲しみが一方にあるからで、その二つが組み合わさるからこそ「東京」という都市は、一期一会ということは輝かしい。大体それぐらいの意味かな、と読み返して思いました。
メンテ
Re: 第四回短編コンテスト【投票期間】 ( No.13 )
日時: 2011/12/10 23:23
名前: ピクシー(投票) ID:MSkTzSbs

どうも、ピクシーです。Jリーグも終わりましたね。明日のクラシコが楽しみだ。

(順位)
1位Raise:『いつかまた東京で、なんて言わないように』
細かいディティールの中に、テーマがまんべんなく入っている印象。
文章に関するテクニックの高さと書く力は、やっぱり頭一つこの中で抜けている。ただ、タイトルは再考で。

2位オムさん:『文京区図書館にある町田康のCDは……』
タイトル最高希望その2。
面白いんだけど、何か1回目のコンテストで同じような書き方をした小説を読んだ気がするのですが。
あと、すごく上から目線感の強い作品だなーと。

3位芹:『双子の人魚姫』
「新説・人魚姫」という印象。
うん、まあテーマ消化は超どストレートなスタンスを感じた。それに関しては文句ない。
個人的には4位の作品と差はない。春姫さんと、どっこいどっこい。あるとすれば好み。

4位春姫:『闇の魚』
小説としての中身が薄いなあ。起承転結はあるけれど、内容に関して言うならこの話が一番薄い。
1回目からのレビューをちゃんと読んでいないんじゃないのか、みたいな作品。
提出した日で終わりなんじゃなくて、期限まで試行錯誤が欲しかった。

(全体を通して)
自分の筆力不足に絶望。
海を2時間ドラマで船越英一郎ががけに犯人を追いつめて「やめるんだ!」って犯人を説得するシーンをやってくれるんじゃないか。そんな思い切った書き手も出てくるかなと思いながらやっていたけど。まあ、案の定出てこなかった。テーマを縛りと考えるか、表現の幅が広がると考えるかで、大分差異が出るコンテストではなかったのかなとも感じましたとさ。
以降、前作レビューでっす!

Raise:『いつかまた東京で、なんて言わないように』
テーマはこれでもかというくらい隠れた要素がちりばめられているなと感じた。
まず、鈴の音ってさびしいよねーと思う。そう考えると、パソコンの電源が切れる音が鈴に近いと思う。品川神社の鈴の音もそうだろうけど。海はそのまま使っている感じで、後悔は先輩に伝えることのできなかった思いじゃないのかなあ、と。パソコンの電源が切れる音もね。寂しさと鈴の音って似てるなと的外れなことも考えたことは秘密。
物語の全体的な雰囲気が、月9みたい。何でだろう。香里奈とか、そういうのが出てきているのが原因だからじゃないと思う。
世界観がそうさせるのかなあ。オフィスビルとか、品川神社とか、東京湾とか。そういう大人な雰囲気が出ているから感じてしまうのかなーと思った。派手さはないけど、落ち着いている。大人っぽい。東京という世界観がなせるものなのかな。都民だけど。人物は凄く秀逸。明智さん大好き。すごく格好いい女性って感じで。嫁に来いと言っても無理そうだけど。この3人のキャラクターとしてのバランス感覚が凄く良い。
唯一文句をつけるとしたら、タイトルについてはちょっとごてっとしちゃってるかなーと。Raiseさんにしてはね。「バスルームの海で」とか「眼の中の空地」とか。そういうスタイリッシュなタイトルを見せられた後だと、ちょっとタイトルまでに手が回らなかったのかなと思いながら読んだ。おもしろかった。

春姫:『闇の魚』
闇の魚というタイトル自体はいいのに、肝心な内容がスカスカしていた印象。
テーマは使い方がありきたりだけど、まあ満たせていないわけではないと思う。海を心中で使うというのは、まあ悪くないし、後悔も書き出せている。鈴は弱いけど。
うーん、まあ一言で言えば薄っぺらい。よく言えばもっと書けると思うし、悪く言えば手抜きだよねと。この手の内容って、もっと書くことのできる内容だし、18日なら提出した後でも修正することはできたはず。スペース空けて行数稼ぐ理由もわかりませぬ。筆者が完全に細かいとこまで書くことを放棄しているようにも見える。それを読まされても困る。ナンパのくだりまではそこそこ書けているのに、そこからの展開が速すぎる。そこからが大事なのに。
キャラクター紹介の仕方も雑。やり方までは提示したくないけど(できるほど自分も凄く書けるわけではないので)そういう細かいディティールまでしっかり書いてこそ、小説の中でキャラクターが活きてくるんだと思うし。
いずれにしても小説として粗さがあり過ぎる。原稿用紙20枚目いっぱい使うくらいのものをこの題材、内容ならば書けるはず。内容からそれが見えなければ意味がない。

芹:『双子の人魚姫』
世界観、物語の作り方、全部がグズグズのグダグダ。海・後悔はあっても鈴がない。テーマの使い方も安直。ストーリーの大筋は好きだけれど、ストーリーの筋が成立していても、小説の内容がすかすか。童話をベースにして物語を作るっていうスタンスは別にいいと思うんだけど、人魚姫というものが下地にある以上、読み手を納得させるくらい背景を描かなければだめだと思う。ぶっちゃけ、前の人と文章、構成、内容はどっこいどっこい。薄っぺらい。オリジナリティではそれ以前の問題。何がしたいんだろう。キャラクターも、タイトルも、なんか凄く安直。
それでも3位なのは何でかというと、こっちのほうがいいかなーと思ったから。理由を尋ねられてもものすごく困るんだけど。この人なりに苦しんだのかなと思ったからだと思う。それくらいの差。大差ない。

オムさん:『文京区図書館にある町田康のCDは……』
上から目線満載だなあと思いながら読んでいた。小説としては判断しかねる部分がやっぱりあって、首輪に鈴をつけるくだりとかがもっと詳しく書いてあったら小説になるんだろうけど。だからこそ、判断しがたいものがある。構成と内容は今回の中で2番目によくできてる。文章も礼儀作法は守られてるし、まあいいんじゃないかなーと。文句付けるとしたらタイトル。絶対間に合わないからととりあえずつけちゃった感じを受けた。このタイトルひどい。計算ならセンス無いで終わるけど。

ピクシー:『味噌汁と亀』
タイトルはビートたけしの映画の「アキレスと亀」から。見たことはないから今度DVDでも借りようと思う。急いでつけた割にはナイスプレーなタイトルと信じたい。いろいろ言われるだろうけど、後悔はしていない。
ただ、起承転結に乏しい感満載だなー、と自分の中で反省している。トムラさんやカメちゃんをダイナミックに動かしたかった。玉子焼きはぼくの作れる料理の数少ないレパートリーの中の一つです。玉子焼きを作りながらカメちゃんがトムラさんとのことを回想するというお話です。日常を表現するのは難しい。
最後の2つ、本当にごめんなさい。時間なかった……。もっと参加する人数多くてもいいよねと思いながら、2回目のコンテストのレビューを締めくくります。ありがとうございました。
メンテ
Re: 第四回短編コンテスト【投票期間】 ( No.14 )
日時: 2011/12/10 23:24
名前: オムさん(投票) ID:MSkTzSbs

総評
 作品のバランスが良く読んでいて面白い回ではあったが、その質は総じて低調であったように思われるのは、どうも執筆者各々の準備不足であるように思われ、計算次第ではもっとよくなったであろう作品ばかりであったのは、残念な結果であった。そして肝心の三題であるが、これはお世辞にも書き易い題とはいえなかっただろう。それゆえテーマを消化した作品とただ羅列作品とに別れてしまい、それが前半と後半できれいに別れているのはおかしいところでもあるが、なんとも勿体無かったと思う。

投票
 一位 芹「双子の人魚姫」
 二位 Raise「いつかまた東京で、なんて言わないように」
 三位 春姫「闇の魚」


「いつかまた東京で、なんて言わないように」

 いつかまた東京で、というのはまるでどこかからとってきたようなフレーズで、その収まりの良さが、突然「なんて言わないように」という言葉で打ち消される。ある意味ではだらしないタイトルであるのだが、そうしただらしなさが構築性に対して加える一撃を敢えて試みているのがこの作品であり、それは結局提出されたタイトルにしてもある種のあざとさに収まる他はないということからも容易に推測され得るのだが、だとしたらあまりにも定型通りのあざとさではあるまいか。何もあざとさ自体を否定するつもりはなく、何事も極めれば芸風になり得るとは思うのだが、一方で芸風としての隙のなさが見られない作品は、どうしてもその収束の様に退屈を禁じ得ない。この作品において優れているところは、やはり提出されたテーマをいかにして作品のうちに埋め込むかという点であり、表面的であり、物質的であり、「海」、ときたところでそのイメージに引きずられるように「後悔」が提出され、ところがそれも「鈴」によって何か無理矢理に着地させられてしまいかねないこの三題、それが小道具としての存在感を極力抑えながら、確かに物語の根幹と密接に関わりあうように演出されているのは、提出作品のいずれにも勝る強みである。それにしてもこのだらしない感情の垂れ流しはなんとかならなかったのだろうか。緩やかに繋がろうとする言語の関節をぐにゃりと曲げる固有名詞の連呼は、文体上の必然であるかのように装われてはいるけれども、イメージの過剰を受け止めるだけの受け皿が感じられず、ただただ読者に辟易を齎すのだ。それは現実との接合点が安易に、計画的というよりはむしろ単によかれと思ってなされたかのようであり、そしてまた効果的でもない主人公の女性らしさもあたかも香辛料のように振舞ってはいるものの、おそらくバランスを欠く余分な要素でしかないだろう。何といっても文章の饒舌さが、元来求めているであろう饒舌さと遠く離れ、不似合いなおしゃべりに堕しているのには困ったものだ。それはおしゃべりが不似合いだというばかりではなく、おしゃべりにとっても不似合いな饒舌でしかないということだ。例えば異常に注釈をつけたがる、空転ともいえるような文章の連続はどうだろう。そのような過剰さは、「いつかまた東京で」という言葉を敢えて打ち消したその時から予測されるものでありはするのだが、そうであるならばこれは嫌な予感を見事に的中させてくれたということになろうか。平均点以上にはどうやったって到達し得るが、計画性を欠いているし、あまり加点の対象にはしたくないという印象だけが残る小説であった。

「闇の魚」

 徹底しているとは言えないが、良い語りだ。過不足なく、とは言えず、むしろ過がありすぎるぐらいで、そして後々になって不足もありすぎたのだなと気がつく、弱点の多い文体ではあるのだが、にも関わらず魅力的に読ませることができそうな予感を感じさせる。つまり、徹底さえしていればいくらでも改善の余地はあるのだ。違和感のあるなしは、作品世界内部における整合性の問題であり、作品を読んでいて違和感がなければ現実的であるかどうかなどまるで問題にならないのだが、この作品の場合そこに到達するまであともう少しであり、いやそれは決して問題が少ないというわけではないのだが、もう少し気を遣って書くことができればそれらの問題は自然と解決するだろうという点においてもう少しなのだ。なんとも惜しい。物語はある基本形にしっかり収まっているように思われ、それはそれで悪くはないのだが書き込みが不足しているために唐突な印象が拭えず、さらに登場人物も造形される以前の中途半端さに留まっているため、その唐突さが最後まで鼻についてしまった。同じことはテーマ消化にも言えるだろう。確かに非現実的な要素の根源に非現実者を求めることにより、全体をぐるりと非現実で包み込んでしまうという試みは魅力的で、「鈴」、そして魚といった物が彼女と結びついた形で提示されるのは、それ自体アイディアとしては悪くないのだが、たとえばまるで動きのないカメラで遠方から取り続けたかのような、シーンとしての退屈さがそれらの要素を並列させ、どうしても全体として平板さが生じてしまっている。つまりこの作品についてはこういうことが言えよう。魅力的なアイディアを提示していながら、それを徹底して消化できていなかったために、魅力を打ち消すような退屈さが生じてしまっている、と。物語としてありがちであるかどうかはこの際どうでもよく、というのもありがちでありながらもしっかりと読ませる力強さをどこか感じさせる筆致なのだ。その力強さがまだはっきりとは見えず、沈みくすんで息も絶え絶えになっているのが、なんとも勿体無い小説であった。

「双子の人魚姫」

 既存の物語を変奏するというやり方の起源はそう新しいものでもなくオーソドックスなやり方とも言えるのだろうが、それが魅力的になるためには最低限変奏でなくてはならず、そもそも童話というものが固定されるまでには無数の変奏が生まれたのではあるが、変奏に耐え得るだけの原型を読み替え差し替えしていくうちに現在の形に落ち着いたという事実を顧慮してみれば、やはりその変奏には何がしかの特徴が埋めこまれていなければなるまい。その両者の観点からこの作品を鑑賞したとき、果たしてどれほどそれらのことが達成されているか。王子を救った人魚姫がその事実を伝えようとして人間となるが思いは果たせず泡となってしまう、これが人魚姫の悲恋の物語であるが、ここではその物語は反転させられてしまう。人魚姫は思いを果たし、幸せに暮らしました、これは結末のすり替えであり、こうしたすり替えによって人魚姫が救われることになる、救われぬものが変奏によって救われる、これは一つのカタルシスになり得る。だがここでもう少し詳しく内容を追っていくと、その救いが一体何によって成されているかがわかるのだが、それは姉の犠牲であり、そして犠牲者が姉だからこその愛情なのだ。人魚姫の身体は、人魚姫の身体でしかなく、すべては掟に逆らった彼女自身が背負わなければならぬ罪であったのだが、この作品において人魚姫の身体は双子の姉の身体にまで拡がっており、姉は彼女自身の責任を無償で引き受けることになる。無償である、というところが重要だろう。情熱はひたすらになりふりを構わない、だがそれは否定されるべきものではなく肯定されるべきものとして捉えられる。とはいえ現実との折り合いをつけるために、それはいつでも否定されるべきものなのだ。二つの「べき」の中で、情熱は挫折する、しかしその挫折の仕方は決定的に破滅的であるからこそ、情熱そのものは行く当てをなくしたまま、宙吊りとなり、その宙吊りの中で激しさを示す。行為としての情熱は破滅しても、情熱は燃え続けるのだ。そうはいっても、そのままでは情熱は悲劇にしかなり得ない。悲劇にしかなり得ないもので、不毛ということにもなるのではないか。そして救いの物語が描かれる。情熱は挫折しない、なぜなら彼女は一個の存在としてあるだけではなく、共同体の中に位置し、その共同体は無償の絆で結ばれているからだ。彼女の行動の責任を、彼女だけが負うことはない。彼女の情熱は成就し、しかもそれは彼女自身の手によって成就させられたわけではなく、彼女は彼女の属する共同体を背景にして成就させられるのだ。こうなると家族愛が一種の神性を帯びてくることになる。家族愛が神聖化され、それにより人魚姫は救われるのだ。単純なすり替えではあるが、こうして作品の意味は大きくずれる。ならばこの作品はやはり変奏足りえているし、その変奏はおそらく人魚姫の作品が生まれた当時ではそこまで信頼を置けなかったであろう家族に絶対の信頼を置いているというものであるのだから、これも現代でなければならぬという特徴が、決して強い特徴とはいえないが、見出される。とはいっても、作品の表層が徹底して人魚姫をなぞりすぎている点、そしてまた展開においては、まったく人魚姫の感情を追うことの出来ない急ぎ足で、どうも仕事が丁寧とはいえない。発想が効果的に演出されておらず、どうしても「二番煎じ」のような印象を強く残すのは、なんとも勿体無いことだ。個人的には楽しんで読んだが、評価という観点からは、あまり高い加点はできない作品であった。

「味噌汁と亀」

 味噌汁と亀、亀でも味噌汁に入れるのかと思わせる不意打ちのようなタイトルにまずは目を奪われたのだが、読み進めるうちに亀という登場人物が作る味噌汁の話だったとわかり、こうした拍子抜けのさせ方はあまり良い趣味だとは思えないのだが、全体的に良い趣味だとはあまりいえない作品だったのではないだろうかと思う。物語の要所をセックスで切り抜けるのはよくあることではあるが、あまり必然性がなく、必然性のないセックスが別に悪いということではないのだが、では同じくセックスのアナロジーとして語られることがある料理の描写はどうかというと、まったく同じように必然性が感じられない、というのもここでいう必然性とは即物的なものに対して即物的な反応を返し得るかどうか、ということなのだ。勿論物語のうちでの必然性、というのもあるが、むしろ効果的に使われるセックスは物語のうちで必然性もなく突然に出会われることで、物語を攪拌してくるものであろう。だがそれは描写の快楽にふける、といった性質も併せ持つものであり、ここではそれがまるで感じられない。なぜセックスが描かれたのかというと、雰囲気以上のものに感じられず、それでいて物語の核を握っているというのが、なんとも腑に落ちないのだ。さらに言えば、そのいい加減さはテーマ消化にもかなりのところ見られ、海も雰囲気なら鈴も雰囲気、後悔もほのめかすだけで一見上品な作品ではあるがその実何も言っていない。二人のバックグラウンドも一切が捨象されているかのようであり、関係が小さく閉じてしまい、その中で展開はといえば食事とセックスだけであり、つまり内容はどこまでも肉体的なのに描かれ方は徹底して記号的なのだ。文章を書く力量はそれなりに確かではあるし実際最後まで読ませはするのだが、どうにもその全体の揺れ幅のなさには馴染めないし、読み終わっても何も残らず何も残らなかったという感覚が否定的に残ってしまうような作品だったのではないかと思う。描かれるもののイメージがもう少し捉えられていれば、少し印象が変わったかもしれない。

「文京区にある町田康のCDは……」

 壊れている、ということを言いたかった。どんな素晴らしいものでも、壊れていれば伝わらない。ここで壊れているのは語り手、ではなく文京区にある町田康のCDであった。
メンテ
Re: 第四回短編コンテスト【結果発表】 ( No.15 )
日時: 2011/12/10 23:29
名前: 管理者 ID:MSkTzSbs

○総評と新人賞選評について
 まことに勝手ながら、管理者の都合により、総評および選評は後日掲載とさせていただきます。
○反省会について
 規約に従い、明日、12月11日(日曜日)の20:00よりコンテストチャット(http://stcontest.chatx2.whocares.jp/)にて行いたいと思います。参加された方も読んでいただけの方も是非是非ご参加ください。
メンテ
Re: 第四回短編コンテスト【結果発表】 ( No.16 )
日時: 2011/12/11 23:31
名前: 管理者 ID:Ce1Z2ekE

 今月の管理者(雨野)による総評です。以下本文。

○Raise(敬称略。以下同様):『いつかまた東京で、なんて言わないように』
 「先輩の退職」が引き起こす波紋を丁寧な筆致で描いた作品。いつも通り見た目は四角いですが、今回はとても静かな文章で、少しよしもとばななの風味を感じました。毎度ながらの言葉を選択するうまさと、日常の変化をモチーフとするあたりも、どこか女流作家を連想させます。おそらく一番の狙いはやはり「他人が望むこと」と「自分が望むこと」が一致しない葛藤、あるいは感情の機微ですね。明智さんへの複雑な思いをどう越えていくか、どう折り合いをつけるかという悩みは(もう少し起伏があっても良かった気はしますが)とても健気です。花ちゃんはもちろんのこと、日永の健気さも響きます。特に手紙を破り捨ててしまうあたりなどは、やや不躾ではありますが、著者の胸中を推察したくなりました。フロイト的に語るなら、ある種のエディプス・コンプレックスが垣間見えたような気がします。テーマ消化はばっちりでしょう。
 ただ、今一つ押しが足りないような、決まりきらないような印象を受けます。不自然に冷めている、あるいは諦観しているとでも形容すべきでしょうか。なにもそこまで深刻にならなくても、という思いをぬぐいきれませんでした。あえてこう表現するならば、「退職」には「死」や「旅立ち」ほどの強烈さがないのに、不自然に重く扱われているのです。どこかでこの不自然さをひっくり返してくるのかと思いきや、そのまま終わってしまったのが残念に思えました。そのため、どうもカタルシスが薄いように思えます。無論、「退職」に向かい合うことがテーマなので、これで正しいともいえるのですが、やはりこれでは釣り合わない気分です。
 全体として、いわゆる「あざとい」作品でしたが、良い方向にあざとく、よくまとまっており、読後感が良かったです。不自然な静かさはどうにかならなかったのか、と思っては欲張りすぎでしょうか。
(余談ですが、「日永」と「明智さん」の性別に軽く驚きました)

○春姫『闇の魚』
 この系統はかならず一つはくると思いました。春姫さんはいつも直球勝負なのがいいですね。ですます調のよみやすい文章にはどことなく明治・大正の香りがします。プラトニックな印象は変わらないどころか、ですます調でさらに感傷的になった気もしますが、今回は情事まで踏み込みましたね(こういったさらっとした書き方はあまり好みではありませんが)。春姫さん独特の静かな雰囲気は好きです。哀愁を感じさせます。
 ただし残念ながら、終盤にかけてどうも説得力が薄い。いきなり「しかし、蜜月は終わりを告げ〜」から鬱展開ではびっくりというよりもついていけない感の方が大きかったです。折角の見せ所がぜんぶおしゃかです。急展開を単なる説明だけで終わらせるのではつらすぎるでしょう。ここに説得力があれば冒頭の一文と内容を接続させて訴えかけることができたと思います。またある種の「きみとぼくの小さな世界」に終始している点もどうももったいない。せっかくの年齢差設定ですので、コンプレックスにしろ外圧による破局にしろ、第三者を導入することによってどうにでもふくらみの持たせようはあったと思います。私見ですが春姫さんが一番弱いところはここではないでしょうか。
 面白い設定で、文章の雰囲気も好きですが、終盤にかけての展開が残念な作品でした。物語の広がり、深さを意識されてはどうでしょうか(とくに広がりの方を)。
(個人的には会話文の間に改行を開ける文章はあまり好きではありません。感じ方は人それぞれですが参考までに)

○芹『双子の人魚姫』
 『人魚姫』の童話をベースにしてくるとは、少し予想外でした。文体・文章が童話らしいのに好感を覚えました。原作とは違い、姉妹の感情のもつれにスポットを当てている点もなかなか好着想ですね。物語としてよくまとまっていると思います。雰囲気作りが上手いです。総じて文章作り・文体作りが上手い作品でしょう。
 ただし童話の性質上しかたないところではありますが、いかにもお説教臭いのが鼻につきました。形式上、どうしてもラディカルな部分に踏み込めないのはわかりますが、そうなると形式の選択を誤ってしまったとしか言いようがないでしょう。特に妹の葛藤が「しかし、不思議なことはあるものです。」以下の数行で消化されてしまうのはもったいない。そこは書きどころでしょう。原作とは異なるテーマ選んだことはわかりますが、このためにどうしても昔話を踏襲しただけ、というような雰囲気が拭い去れません。芥川の『羅生門』などは今昔物語集から題材を取っていますが、全く味の違う作品になっています。参考までに。

○オムさん『文京区図書館にある町田康のCDは……』
 町田康、海、彼女、転覆と物語が横滑りに横滑りを重ね、完全にぶっ壊れていてこれはもう笑うしかありません。しかしこの壊れた物語を語りのうまさと文体でまとめあげるというむちゃくちゃな力技をみせてくれました。特に薀蓄めいた、なめらかな導入はよかったです(反面、エンディングにはやや難ありですが。いうなれば言い訳がましい)。さて、このような、筋をバラバラにずらし、壊し、夢のような印象を与えるやりかたは『ドグラ・マグラ』しかり、脳内麻薬を量産する名作を生んできた有力なやり方なわけですが、単なる「テクストの快楽」に終わってしまっては物足りない感じが否めないでしょう。そこを補うために多くの作品で過剰なまでの技巧・計算が用いられているわけですが、この作品ではその面が足りなかった印象です。あくまで物語全体が断章としてバラバラであって、まとまりとカタルシスに欠けたのが残念でした(町田康で強引にまとめに来ているのはわかりますが、前述のとおり、言い訳がましい。僕が判断する限りではまとまりとは言い難いと思います)。
 小説の限界に挑戦した意欲作ではあれども、計算による統一感が足らず、いま一歩とどかなかった作品でしょう。

★新人賞選評
○ピクシー『味噌汁と亀』
 常連を除いた候補作の中では、文章の作り方が圧倒的に上手いです。決して技巧的な文章ではないし、無駄だらけなのだけれど、だからこそ作品の雰囲気が強烈な印象をもって伝わってきました。内容面では、正直にいえば勝負できる点は「忘れる」ということの一点であり、練度でいっても弱いといえば弱いのだけれど、圧倒的な日常でのみ表現しうるリアリティがあります。特に料理描写をスムーズに入れてくるあたりには力を感じました。そもそも小説には筋の良し悪しと描写の良し悪しがあり、ふつう両者が良い小説が良い小説とされがちですが、この小説は後者が圧倒的で、筋ですら雰囲気に回収される部分があり、面白さと可能性を感じました。最も無理なく読ませる作品だったのではないでしょうか。
 ただ、飽きのきやすい手法ではありますので、次回はもっと主題を練ってくることをおすすめします。二回連続では辛いし、もう少し長くなってもこの手法では辛いでしょう。それを差し引いても、読ませる小説であったことが良かったです。おめでとうございます。
(雨野)

 腑に落ちる、という表現を使わせていただきますが、なんとなく読んでいて、好みに合うかどうかは別として、とりあえず物語のうちでそれぞれの要素がすとんと収まったなという感じがする、そういう感覚があります。それは違和感を感じない、とか、作品として完結している、とかでもいいのですが、とにかく作品の中の言葉で作品を語りつくせている、そういうことだと思います。外側の言葉を持ってくる必要がない。何か言おうとしても、無理ができてしまう。言ったほうが難癖をつけているような感覚になる。もちろんそこまで行けばある意味完璧ということになりますから、そういう作品があり得るのかというと微妙なところですが、それでも目指すべき一つの方向性ではある、と思います。そしてピクシーさんの作品はその方向性を目指すべきであろう、とも。今後も書きたいものがこういうものであり続けるのであれば。
 なんとなく、で書ける作品だと思います。身もふたもない言い方をすれば。それでも、なんとなく書いたがゆえの、力の抜け方、特に文体が心地よかった。内容を掘り起こしていくと「何言ってるんだ?」となるぐらい、それぞれの行動が繋がらず、いいなと思う場面をただ繋ぎ合わせただけなんじゃないのか、と邪推してしまいたくもなるのですが、読ませるという点では今回の候補作の中でも頭一つ抜けていたのは確かです。それは閉じ方がつつましく、二人にだけフォーカスが当てられているという世界観の矮小さも、効果的だったのではないかと思います。とにかく人間がいれば物語は生まれるものだし、振る舞いが魅力的ならそれだけでひきつけることができる。技法としては頭が良いし、全体の整合感を失わないほどのなめらかさは維持できていて、不満はあれどもそれなりに楽しんで読めてしまった。これは、やはり強みでしょう。多分なんとなく書いたのだろうけれど、なんとなくでここまで読めるのであれば、それは一つの技術であって、その一点は、高く評価されるべきだと思います。
 ただ、この作品はそのなんとなく書かれた世界を、説得的なものにする過程があまりにも弱い。結局そのなんとなくにのれたかのれなかったかで、作品の評価を大きく二分するところがあるし、多分多くの人はのれないのではないでしょうか。捨象されているものに対する関心のなさが致命的です。ぎりぎりまでフォーカスを絞っている、といっても、最初からそのフォーカスに同期できない人は、どうやってこの小説を読めばいいのか。ここがとにかく弱かった、と思います。書かないのではなく、最初から存在しないかのように、文体、キャラクタ、物語が振舞っているから、読者はその像をつかめない。「何考えてるんだこいつ」と思わせるところまで、違和感を残してしまっている。読ませる作品ではありましたが、読める作品ではないな、そういう印象をどうしても受けてしまいました。
 私個人的には、あまりこういう作品よりは、別の路線でその技巧を伸ばしていって欲しいな、と思うのですが、この路線で行くのなら、やはり作品の内側の言葉をもっと強くすることが必要だと思います。そしてそれには、外側への無関心というよりは、外側を一度想定しつつ、打ち消しながら書くような姿勢が要求されてくるはずです。と、色々言いましたが、とにもかくにもすでに動かしがたい強みをしっかり持っている文章ではありますから、その後はどうにでもなるでしょう。次の作品を、楽しみにしています。新人賞おめでとうございます。
(仁井田)

○総評
 今回は数こそ多くはなかったけれども、全体としてレベルが高く、投票棄権作品もなかったという意味で、運営としてとても安心しました。そもそもの投票権が少なかったせいもありますが、点数的にも僅差でした。ただ、例外はあれど、どの作品もテーマに縛られたのか、いわゆる感傷的な方面に流れがちで、その点は反省するとともに、やや残念さを覚えました。その中で、感傷そのもの、あるいはその雰囲気を描き切ったのが、一位である『いつかまた東京で、なんて言わないように』と新人賞である『味噌汁と亀』だったのではないでしょうか。あるテーマを掘り下げる際には『いつかまた東京で、なんて言わないように』を参考に、ある雰囲気を描き切ろうとする際には『味噌汁と亀』が役に立つでしょう。
 総じてコンパクトながらよいコンテストになったと思います。何よりも皆さんのご尽力のおかげです。さて、次回は一月十五日より開始です。ふるってご参加ください。
メンテ

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