フォンドネスドール ( No.4 )
日時: 2012/01/20 14:35
名前: 春姫 ID:DTiomFAA


 私がとっても綺麗だから、王様は私をお城の地下深くに閉じ込めてしまった。暗い暗い地下は、蝋燭の明かりだけだから恐ろしくて、どんなに綺麗な宝石も、調度品も意味を成しはしないの。
 王様は気が向いたときだけ地下に降りては、一頻り私を愛でて、満足顔で去っていく、後はただ、決められた時間に運ばれてくる食事を機械的に食べるだけ。
 美しいドレスなんて、美しい装飾品なんて、こんな地下では何の役にも立ちはしないの。それが分からない王様は、馬鹿みたいにガラクタを積み上げていく、まるでお人形遊びみたい。
 お人形と言えば、私付きの侍女のメルディは無口で無表情、私の身の回りのお世話はみんなメルディがやってくれる。髪を梳かして、爪を磨いで、体を拭いて、身なりを整える、私はメルディがいないと何もできない。
 メルディは背が小さくて、ぽってりとした唇に薔薇色のほっぺた、金色のウェーブの掛かったボブヘアはまさしくお人形の可愛さ、私の推測だけど、メルディも王様のお気に入りの一人だと思う。
 今日もメルディが食事を運ぶ足音が聞こえてくる、石階段を下りる音が響いてくる。すぐに控えめなノックの音が二度、ゆっくりとドアが開かれると、そこにはいつもと違ったメルディがいた。
 お人形のように変化のない顔が、まるで火事にでも出くわしたみたいに汗だらけで、表面上だけはいつもの澄まし顔だけど、そんなの無いも同然、おかしなメルディね。
 私は出来るだけメルディを落ち着かせようと微笑んで見せた。可哀想に震えてるメルディの肩を数回撫でてあげる、すると落ち着きを取り戻したのか、メルディは息を大きく吸った。
 話を纏めれば、王家けが失墜したらしい、あっそう、で締めくくってしまうのもいいけれど、あんまりにもメルディが悲痛な表情をするものだから困ってしまう。

「可愛いメルディ、それで私はどうしたらいいかしら」

 こんな地下じゃ、地上で起きた事は届かない、だからかしら、少しも焦る気持ちが沸いてこないのわ。

「このままここにいては殺されてしまいます。この奥に隠し通路がございますので、そこからお逃げください」
「メルディはどうするの」
「私はここをお守りしないといけません」
「そんなの困るわ、誰が私のお世話をしてくれるというの、メルディ、あなたがいなければ私は何も出来ないお人形なのよ」

 とっても綺麗だから、誰も私を働かせようとはしなかった、ただそこにいて笑ってくれればいいんだよ、と、みんなお決まりの台詞ばかり口にした。
 王様だって同じ、こんな地下に閉じ込めた。
 どうしてかしら、メルディだって可愛いのに、王様だってメルディを可愛がっているはずなのに、どうしてメルディばかり苦労を買っているのかしら。
 私の後ろには、腐るほどのドレス、つけきれないほどの装飾品、全部いらないって思っていたのに。

「ねえ、メルディは着飾った事があるかしら」
「そんなこと今は関係ありません、早く、早くお逃げください!」
「いいのよメルディ、ここから逃げたって、逃げなくたって、きっと何も変わらないわ」

 慌てるメルディを化粧台の前に座らせて、馴染んだ櫛で丁寧に髪を梳いてあげる。色とりどりのダイヤがあしらわれた髪留めをつけて、愛らしい頬に紅をつける、唇には淡いピンクを彩って、一層華やかに見せる。
 その間に私の昔話をメルディに聞かせてあげる。まだ暗い地下に閉じ込められる前のお話ね。
 私は王国から大分離れた村に住んでいた。小さな頃から皆に、綺麗だ綺麗だって褒められて生きていた。だから辛い仕事なんて一度だってやったことはなかった。
 水汲みも、畑仕事も、飯炊きも、何一つ私はやらなくても良かった。私があんまりにも美人だから、結婚相手は引く手数多だったの、でも、私は王様に見初められて暗い地下に閉じ込められてしまった。
 私を取り戻そうとした男がいたけれど、反逆罪で死刑にされてしまった。その頃には地下にいたから、その話を聞いたのは大分後になってしまったの。
 その人は、私の婚約者だった。冴えない人だったけど、深い愛情と優しさ溢れる人物でね、愛されてて気持ち良かった。そこで私の手は止まってしまう。
 後はドレスの背にあるボタンをかけるだけ、姿見に映るのは美しい女、もしかしたら私はメルディのように侍女をやっていたかもしれない、メルディは私のように生きたかもしれない。

「どっちにしてもお人形ね」

 でも私は、メルディが妬ましかった。

「っ足音が!」
「さ、行ってメルディ」

 本当はとっくの昔に知っていた隠し通路にメルディを押し入れる。逃げ出そうと思えばいつだって逃げれたの、でも、私は誰かに囲われなくちゃ生きれない。
 でもメルディ、あなたは違う。
 大きな喧騒が地下になだれ込んでくる、数分もしない内にここも見つかってしまう。
 どうしてメルディを逃がすのか、そんなの私にだって分からない、ただ、私はメルディと自分を重ねて見ていた。私と違って笑いもしなければ愛想もないメルディだったけれど、まるで鏡合わせの様に同じに見えていた。
 ドアを壊す音は一瞬で、すぐに人が飛び込んでくる、私はとびきりの笑顔で彼らを迎え入れる。悟らせはしない、私の人生初の大仕事だ、失敗は許されない。


 その日、王家は崩壊し、王族は皆吊るし首となった。地下に囚われていた女は、その美貌で命を拾い、後に流行り病で命を落とす。
 同日、身形を整えた一人の女が、森を駆ける姿が目撃される。話によれば女は、それはそれは綺麗な笑みを浮かべていたそうだ。
 これは小さな王国の幕引きのお話でございました。